第531話 テミラへ
神聖国テミラへの移動中、安否の分からない家族の事や、大統領としての責任の重さに、しばらくは神妙な面持ちでいたラネルだったが、渚との会話で徐々に元気を取り戻し笑顔が見られるようになった。そんな二人の会話に割り込むのは野暮なので、今はそっとしておこう。
それはそうと、テミラに着いたら重要な作戦が待っているので、俺は今のうちに腹ごしらえすることにした。何を食べようかと考えていると、ナナミが大量の芋料理を持ってやってきた。
「勇太、これ一緒に食べる?」
「どうしたんだそれ?」
「ナナミが作ったんだよ、慣れないからいっぱいできちゃったから勇太と一緒に食べようと思って持ってきた」
「ナナミの手作りか……」
「ちょっと、何よその不安そうな顔! 大丈夫だよ、ちゃんと清音に教わった通り作ったんだから」
清音の和食は確かに美味いが、作ったのがナナミとなると、なぜか急に不安になるもので不思議なものだ。
しかし、予想に反して、ナナミの芋料理は美味しかった。お腹も空いていたこともあり、かなりの量を平らげた。
「勇太、ちょっといいかい」
そう言ってアリュナが俺の隣に座る。座る流れの動作で芋料理を一つ口に入れると味の感想を言う事なく話を続けた。
「ラフシャルが妨害装置の予想図を書いてくれた。こいつが今回のターゲットになるから目を通しておいて」
渡された紙には妙な形の装置が描かれている。とげとげしい見た目が特徴的なので、すぐにわかりそうだった。
「大きさはどれくらいなんだろ」
「かなり大きいらしいわよ」
「じゃあ、間違えることもなさそうだな」
しかし、そんな完全に油断した俺の発言をどこで聞いていたのかジャンは聞き逃さなかった。
「そうとも限らないぞ。ダミーがあるって可能性だってある。そうやって決めつけて考えるのはお前の悪い癖だぞ、勇太」
ジャンはブツブツと説教を言いながらも、ナナミの芋料理を一つ摘まむ。無反応だが悪くなかったのか、二つ目も口に放り込んだ。
「ダミーか、確かにそんな可能性もあるな……ん? ナナミどうした? なんか機嫌悪そうだな」
「どうして、みんなお芋食べてもなんの感想も言わないの!? ナナミ、一生懸命作ったのに!」
どうやら美味しいと言って欲しかったようで拗ねてるようだ。そう言えば俺も美味しいとは言ってない。
「あっ、ごめんごめん、十分美味しいよ」
「十分は余計、美味しいだけでいいから」
ナナミはちょっとだけ膨れっ面になったが、美味しいと感想を聞いて少し機嫌を取り戻したようで俺にベタベタし始めた。あ~んしてとか、どこで覚えてきたのか必要以上に絡んでくる。
「あら、作戦の打ち合わせでもって思ったけど、忙しいみたいだから後にした方がいいかしら?」
嫌味な口調で渚がそう言う。別にやましいことはないけど、この口調の時の渚は怖いので、すぐに元気よく返事をした。
「い、いや、大丈夫すぐに打合せしよう! すぐにしよう!」
強引に背中を押して、俺は渚を会議室へと誘導した。
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