第513話 窮地へと/ラネル

「どの国も経済成長は順調のようですね」


連邦各国の資料を確認しながら、そう言うと、経済庁長官が説明を始めた。


「ようやく連邦経済圏の効果が出てきたようです。輸出、輸入時の関税も撤廃され、開かれた経済活動は結果的に、連邦全体に富を呼んでいます」

「そうですか、それならそろそろ、一般市民の減税も考えてもいいかもしれないですね」

「そ、それはまだ早いと思います」

「どうしてですか? 公的予算を見ても、十分可能だと思いますけど」

「数値ほど、連邦政府に資金は残っていないからです」

「それではこの数値にある豊富な資金はどこに消えているのですか?」

「各国の王族や旧豪族、政府高官の懐へと……」

「なるほど、そういう腐敗が多少あるのは知っていましたが、これほどの資金を溶かしてるとなると容認できません、何か対策を立てる必要がありますね」


各国家の悪い体制を根こそぎ消し去るのは難しかった。それほど深層まで根が張り巡らされていたのだ。それでも表面上の腐敗は除去していたつもりだったけど、富を市民へと還元できないほどの影響がまだ残っているとは思いもしなかった。


その後、信頼できる政府の人間を集めて対応を話し合おうとした。しかし、それを実行する前に、アムリア連邦を揺るがす異変が起こり始めた。


「チヌーク王国の国内で反乱ですか」

「はい、すでに連邦軍を派兵していますので、すぐに鎮圧されると思いますが、関係者の処分をいかがいたしましょうか」

「首謀者と主要人物は逮捕して正式な裁判にかけてください。それ以外の者に罪は問いません」


大きな国家になれば内部でもめることもある。そんなふうに軽く考えていたのだけど、悪い報告はこれで終わらなかった。


「大変です! バラント共和国、レベナン国にて反乱が起こりました。どんどん規模が拡大されており、隣国にも飛び火しそうな勢いです!」


さらに報告は続く、次の報告には心臓が止まりそうな衝撃を受けた。


「急報!! リネア王国のメネミヤ女王が暗殺されました! リネア王国内は大混乱へと陥っているようです!」


今まで運が良く順調だったのだろうか、立て続けに起こる悲報に胸が締め付けられる。さらに事務処理が追いつく前に、次々と連邦各地から悪い知らせが届く。


「イオム、ローダム、メロリカ、各国で住民による大規模な暴動が発生! 政府施設が襲撃され、多数の死傷者がでているもようです!」

「ラーザム王国がアムリア連邦からの脱退を宣言しました! 隣接する国へと軍を派兵して、戦争状態にあるよです」

「連邦軍第108師団がクーデターを起こし、東部の複数の都市を制圧したようです!」


とどめの報告は、良く知っているあの人物からだった。

「ラネル大統領、エモウ王より至急の入電です」


ちょうど今の状況を相談したいと思っていたのですぐに通信に出た。久しぶりのエモウ王の声は重く沈んだものだった。

「ラネル、時間が無いので用件だけ伝える。すぐに信用できる護衛を付けて、その場から離れろ」

「どういうことですか!?」

「大統領暗殺計画が進んでいる。もうすでに止めようがないほど事が運んでいるようだ」

「そんな……誰がいったい……」

「あと、政府や軍の人間は信用するな、もう連邦内は誰が敵だかわからない状況だ。私が手助けできれば良かったのだが、すでに未知の軍勢に屋敷が包囲されていてね……もう脱出するのも不可能だろ」

「そんなエモウ王……すぐに救援の軍を送ります!」

「そんなことしている暇があったら逃げるんだ。そうだ、無双鉄騎団を頼りなさい。彼らなら信頼できるだろ」


そう言うと、エモウ王は通信を切った。完全に音声が切れる前に、ザワザワと騒がしい声が聞こえたので、包囲する軍勢が屋敷に突入してきたのかもしれない。どういう状況かわからないだけに、凄く心配になり胸が締め付けられていた。

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