第512話 小さな異変

なぜか急に忙しくなってきた。メルタリア王国をはじめ、その周辺国からいくつもの仕事の依頼が舞い込んでくる。大きくなった組織をゆっくり固めていくつもりだったので、このタイミングで忙しくなるのは間が悪いように思えた。


「契約しているメルタリア王国の依頼は受けるとして、他の周辺国家からの依頼はどうするかだな」

「え~断ろうよ~そんなにいっぱい仕事受けたら大変だよ~」

ジャンの問いにナナミは心底嫌そうにそう主張する。


「所帯がでかくなったんだ、嫌でも受けないと食っていけないよ」

「そうですね、今の団の規模なら戦力を分けても十分仕事に支障はありませんし、できる限り対応した方が今後の為になるんじゃないかしら」

アリュナとエミナは全ての依頼を受けることを主張している。二人は根は真面目なので、仕事に対して前向きだ。


「勇太はどう思う?」

「そうだな、受けてもいいんじゃないか、ラフシャルの賞品で資金が枯渇してやばいんだろ?」

「おっ、お前がそんな気をつかうなんて成長したな。確かに金銭事情的には受けるのが得策ではあるが、組織を固めるのも大事だからな。時には目先の金より優先しなきゃいけないこともある」

「じゃあ、断るのか?」

「いや、俺は受ける方がいいと思っている」


どっちだよと突っ込みたくはなっだけど、その後のジャンの説明は論理的であった。


「並みの仕事だとお前や剣術指南殿が一人いれば事足りるからな、他のメンバーの出番がなくなる。実践は一番の訓練でもあるからな、他のメンバーの成長を考えりゃ戦力を分散してでも多くの仕事をこなした方がいいだろ」


確かにそんなこと言われたら反論できない。他のメンバーも納得したのか、議論は受けるか受けないかではなく、どういう編成で部隊を分けるかの話に変わった。


「え~と、今きている依頼は七ヵ国と一団体からだな」

「だろすると、最低でも七部隊に分ける必要があるんだな。それで、それぞれ依頼はどんな内容なんだ?」

「ふむふむ、ちょっと待て……どういうことだこれは……」

資料を確認していたジャンが何かに気が付いてそう呟く。


「どうした?」

「七ヵ国とも全て反乱の鎮圧なんだよ、妙だな……同じタイミングで、七ヵ国の国家で内乱が起こっているってことか」

「そんな偶然あるのか?」

「ありえんよ、どの国も内政は安定している国ばかりだ。反乱自体が起こる可能性が低いし、世界的大災害があったわけもないのに急に同時期に国内情勢が不安定になるわけない」


「リンネカルロ、メルタリアからの依頼も反乱鎮圧なのか?」

「そうですわよ。ユーディンの話では、複数の地方領主が結託して王都に向かって進軍してきているそうですわ」


「俺たちに依頼しなきゃいけないほど大規模なのか?」

「兵力的にはそうでもないそうですけど、反乱を起こしている勢力の数が多くて対応に苦慮しているみたいですわ」


「メルタリア国内でさえ、複数の反乱が同時に起こっているのか、やっぱりなんか変だな」


妙な状況にみんな考え込んでいると、会議室のドアがノックされ、通信担当者が至急の連絡を持って飛び込んできた。


「大変です! アムリア連邦から緊急救援依頼の連絡が入りました! どうやら大規模な内乱が起こってラネル大統領が窮地に陥っているそうです!」


それを連絡を聞いた渚は、持っていたティーカップを落とした。

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