第511話 彼女の話

甲板にでると、休憩用に設置されているベンチに座る。フィスティナは絶妙な距離感を保ちつつ俺の隣に座った。


「気持ちいですね」

大型艦のフガクの甲板はかなりの高度にある為、停止していても良い風が吹いてくれる。気候や季節にもよるけど、艦内はちょっとむしむしして暑いことが多いので、自然の風は冷たく感じて気持ちが良い。


「そういえば惜しかったな、美女コンテストの結果」

フィスティナはちょっと固い笑顔で俺の話題に応える。

「いえ、元々優勝なんて無理だと思っていましたから」

「そもそもラフシャルが変則的すぎなんだよ、俺から見たらありゃ反則だ」


フィスティナはハハハッと上品に笑い、少しの間の後、真剣な表情に変わった。そしてこう話を切り出した。


「勇太さん、この先、無双鉄騎団はどこへ向かうのでしょうか……」

唐突の質問にちょっと戸惑う。

「どうだろう、仕事次第だと思うけど」


「無双鉄騎団は大きくなりました。優秀な人材も多く、強力な兵器も有しています。大抵の国と戦いになっても互角以上に戦うことはできるでしょう。だけど、大きな力は大きな敵を引き付けます。向かう先によっては、これまで出会ったことのないような強敵と対峙することになるような気がするのです」

「それは予言かなにかか?」

「いえ、女の勘です」

「ちなみにどっちに行くとその強敵がいると思うんだ」

「北です。北に不吉な気配を感じます」

「北か……北といえばエリシアかな、確かに大きな国だし、強敵だとは思うけど今までも何度も戦ってるからな……まあ、どっちにしろ仕事次第だ。必要だったら北に向かうし、強敵と戦う必要があるなら戦うまでだ」

「勇太さんはまだわかってません! 今までの相手とは桁違いの存在なのですよ! 勇太さんでも勝てるかどうかわからないんです!」


ただの勘にしては具体的な相手のイメージがあるようだ。まるで知っている相手のようにフィスティナは熱弁する。


「どんな相手でも関係ない。戦う必要があるなら戦うし、戦わないですむなら戦わない。まあ、戦って勝てないようなら逃げるしな」

「貴方は逃げてはダメです。貴方が勝てないなら誰も勝てない……勇太さん、強くなってください。もっともっと強く……どんな敵にも勝てるほど強く成長してください」


どういう意図で彼女がこんな話をしているのかわからないけど、ふざけて言っているようには聞こえなかった。仲間を守る為にも強くなることに異論はない。俺は彼女にこう約束した。


「わかった。俺は誰にも負けないくらい強くなるよ」


それを聞いたフィスティナは安心したのか、小さく頷いて微笑んだ。それにしても俺の成長をこんなに気にするなんてどうしたんだろうか、いつもと違う彼女の言動に、ちょっと違和感を感じた。

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