第509話 ある男の目的/???

初老の男は広く薄暗い部屋にいた。王が座るような大きな椅子に鎮座し、二十歳くらいに見える若い男の話を聞いていた。


「それでラーシア王国の方がどうだ、南瑠璃子はうまくやっているか?」

「はい、かなりの戦果をあげているようです。エリシア帝国はラーシア王国を突破することはできないでしょう」

「ふむ、あの女の心の強さか、それとも新技術であるバーストニトロの効果か、並みの才能しかないのに、エリシアの十軍神相手によく戦う」

「よほど提示した報酬を手に入れたいのでしょう。それにしても良いのですか、地球へ帰してやるなんて、できない約束をして」

「ふふふっ── バーストニトロの副作用により、正気を保っていられるのはせいぜい二年だろう。目的を達成した頃には自我など崩壊しているよ」


「悪いお人ですね」

「わしは善悪などに興味がない。盤上にある駒が、自分の思い通りに動くことが重要だ」


「今のところ、想定外はないと?」

「いや、残念だがわしも万能ではない。アスタロトの復活は想定より早い。あのルシファーがこれほど早く、切り札を動かすとは予想外だったわ」

「やはり南瑠璃子ではアスタロトには勝てませんか?」

「問題外だ。さらに凶悪な改造を施しても勝機は0.1%もない」

「そうなると、こちらの切り札頼りとなりますね」

「うむ、それで、その切り札の成長度合いはどうなっておる?」

「フィスティナの報告では、まだ二割程度だということです」

「フッ、やはりアスタロトの登場が早すぎだな。クラス2といっても、その程度の練度では限界突破しているアスタロトには勝てまい」


「やはり、旧文明の英雄のあの二人を復活させる必要がありますね」

「うむ、それは諸刃の剣になりうるがな、ルシファーどころか、フェリやメティスも黙っていまい。まあよい、もう少し時間を稼ぐとしよう。大陸全土に敷いている無双鉄騎団に関する情報遮断を徹底するよう、アリス大修道院に伝えよ」


「はい、ラフシャル様」

「おい、いつも言っているだろ、その名は使うなと、それはもうメティスのものだ」

「私にとっては今も昔もラフシャルは貴方だけなのですけどね」

「結社の名も勝手にラフシャルにしおって、もう捨てた名など忘れよ」


「わかりました。それではラドル・ベガ様、私はこれにて失礼します」


若い男はそう言い頷くと、薄暗い部屋から出ていった。


ラドル・ベガと呼ばれた男は若い男が出ていくのを見送ると、天井を見上げた。そして誰に向かってか小さな声でつぶやく。


「進歩は争いの中でこそ進む……メティス、フェリ、ルシファー……お主らが次の高みへと到達できないのであれば、このわしが登るしかあるまい」


何かを決意したような寂しい響きの言葉が薄暗い部屋に響く。ラドル・ベガは何かを決めたのか、小さく頷くと机にあったボタンを押した。しばらくすると、さきほど部屋を出た若い男が戻って来た。


「気が変わった。全ての結社員に伝えよ、結社は新しい時代へと進む。旧世界の全て破壊せよと」


若い男は驚くこともなく、ただ大きく頷いた。

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