第492話 一息

俺らが入団した剣闘士たちを連れてきたことにより、事務処理が増えてさらに混乱を期したが、ジャンが帰って来たことにより状況が一気に改善へと向かった。山積みになっていた書類はみるみる減っていき、同時に人事処理までこなして編成を固めていく。さらに10隻もの大型ライドキャリアの購入も進めて、部屋割りまで決めてしまうとは、感心するのを通り越して逆に呆れるほどであった。


「前から思ってたけど、ジャンって人間じゃないんじゃないの?」

事務処理地獄から解放されて、みんなで温かい豆炭茶を飲みながら一息ついている時、エミナが真顔でそう言う。

「そうだね、ありゃ、人ではないわ。少なくてもベテラン十人分くらいの事務処理は一人でやっていたわよ」

アリュナが断言すると、一同頷いて同意する。


「人を化け物か何かみたいに言うな。事務処理は得意なだけだ」

噂をすればなんとやら、ジャンがそう言いながら食堂へと入って来た。


「優秀な人間ってどうしてこう地獄耳なんだろうね」

「あんだけ大きな声でじゃべってたら嫌でも聞こえる。それより休んでる場合じゃないぞ。今後の方針を会議で決めないといかん。勇太、アリュナ、剣術指南殿、清音、エミナは後で会議室に集合だ」

「今後の方針ってなんだ?」

「これだけ大所帯になったんだ。いままで通りの仕事のやり方じゃ全員を食わしていけないだろうが」

「今までより大きな仕事をメインにするってことか」

「それを決めるんだよ。部隊を分けて数をこなすって手もある」

「なるほど」


そんな大人の会話が面白くなかったのかナナミが自分の欲望に忠実な提案をする。

「そんな会議より、いっぱい人が増えたんだから、歓迎会やろうよ! ナナミ、美味しい物いっぱい食べたい!」

「あっ私も歓迎会、賛成~」

ファルマも同調して意見したことで、会話がそっちへと流れる。


「歓迎会って言ってもな……1000人規模となると難しいんじゃないか?」

どう想像しても1000人規模の歓迎会のイメージがわかない。ナナミやファルマにはわるいけど否定的な意見を言った。


「酒を飲む理由になるから俺的には賛成だが、会場を用意するのも一苦労だな」

「料理の用意だけでも大変だからね、勇太の言うようにちょっと難しいんじゃないかい」

オヤジやアリュナも冷静な大人な意見をだす。歓迎会は無理だなという雰囲気になりそうだったのを、我が幼馴染みが引き戻した。


「1000人くらいなら大丈夫だよ。だって、実際にうちのおじいちゃん、毎年それくらいの規模の祭りを取り仕切ってたよ」

「祭りと歓迎会は違うんじゃないか?」

「どうして? お酒飲んで、料理食べて、みんなでワイワイやって、どこが違うのよ」


うむ、確かにそう言われればたいして違いはないかもしれない……祭りっぽい歓迎会ならできそうだな。

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