第484話 最後のあがき/ジャン

近づく軍隊はダーラン共和国の正規軍であった。すぐに剣術指南殿と清音たちに出撃準備をさせる。


ダーラン軍はムサシを包囲すると、すぐには攻撃を開始せず、一台のライドホバーだけが近づいてきた。罠にしてはあまりに無防備な行動に、少し様子をみることにした。


「ジャン!! ジャン聞こえるか! 俺が誰かわかるよな!」

ライドホバーから聞こえてきたのは知った声だった。どうやら俺がここにいることがバレたようだ。まあ、軍を引き連れてここに来たのはそれだけが理由ではないようだ。怒りと焦りのある口調から相当追い詰められているのがわかる。


「聞こえている。偉大なる大統領さまがこんな庶民に何の用ですかね」

「ふざけるな!! 貴様の工作で、全てが台無しだ!! エリシア帝国の援助で、この国はもっと大きく豊かに発展したのに……俺の計画が……俺の野望が……ジャン!! 貴様だけはゆるさんぞ!」

「お前は本当に馬鹿野郎だな。エリシア帝国からどんな条件を約束されたか知らないが、それを守ってくれると本気で思っているのか? 利用されるだけされて、あとは無残に捨てられるだけだぞ」

「う、うるさい! そんなことにはならない。この俺がさせはしない! エリシア帝国を利用しているのは俺の方だ! 最後に勝つのは俺なんだ!」


どこでどう間違って、こんな歪んだ人間になっちまったんだよ。出会った頃はエリート意識はあっても、ここまで傲慢な人間ではなかったはずだ。何かこいつを変えるきっかけがあったのだろうが、今はそのことについて考えている暇は無い。


「お前が見てるのはどんな勝利だ。その勝利は本当に幸せなのか? 国民のことを考えて行動しているのか? お前はこの国の長なんだぞ、第一に考えるべきは自分の野望ではなく、国民の幸せだろうが!」

「ぐっ……俺に説教するな! もういい! 貴様はこれから消えてなくなるんだ! 話すのも無駄だ!! 降伏も認めないからな、覚悟しろ!」


そう吐き捨てると、ブッダルガは自軍へと戻っていった。どうやら攻撃を開始するようだ。あの様子だと、この戦いの勝利に意味がないということは奴にもわかっているのだろう。俺に邪魔されたことも理由だろうが、ある意味、うまくいかないイライラをただこっちにぶつけてきただけなのかもしれない。


「敵が攻めてくるぞ。エクスカリバー、菊一文字、鬼丸国綱、虎徹、出撃だ。徹底的に叩いてやれ! ムサシは魔導機隊を援護しつつ敵ライドキャリアを砲撃しろ!」


こちらは四機、敵は三百機以上と単純な戦力では劣っているが、実力では圧倒していると確信していた。さっきの剣術指南殿の戦いからすると、剣聖一人でも勝てるんじゃないかとすら思う。

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