第485話 一方的/ジャン

戦いは想像通りに展開した。出撃したムサシの魔導機隊は四方に散り敵に向かう。そして圧倒的多数の敵に臆することなく、敵軍に突撃した。


四人の中では一番地味なトリスだが、もっとも派手なスタートを切った。敵の一団に跳躍して飛び込むように突入すると、素早いステップで動きながら剣を八の字を書くように振り、一度に三機の敵を斬りながら剣圧で吹き飛ばす。敵は槍や剣などでトリスを仕留めようとするが、全方位からの攻撃が見えているように反応すると、簡単に弾き返し、返す刀で斬り伏せる。


ブリュンヒルデは性格が動きによく出ている。堅実実直な彼女は、無理をせずゆっくりと敵に近づくと、一機づつ確実に斬り伏せていく。敵が同時に攻撃してきても、体の位置を微妙に変えて対応し、決して複数機と対峙しない。だが、不思議なことに撃滅する速さはトリスに負けてはいない。それだけ彼女の動きには無駄がなかった。効率的に無理をせず、確実に敵を倒していく姿はまさに戦闘職人と言うべきだろう。


清音はトリスとブリュンヒルデの動きを足して、それを2倍にしたような動きをみせる。素早く効率的でありながら豪快な動作は、もはや魔導機の動きを超越していた。敵機の攻撃は紙一重で避け、刹那の反撃で斬り伏せる。さらに滑るような動きで自らも敵機に接近して次々に撃破していった。


剣術指南殿に向かっていった敵は、大きな恐怖に直面していた。ほとんどの敵ライダーは、自分がどのようにやられたかわからなかっただろう。もはや剣を振るモーションすら確認するのが困難なほどの速さに加え、間合いすら曖昧なのでどの攻撃でどの敵が斬られたのかすら俺にはわからなかった。だが、エクスカリバーの周りの敵が次々と破壊されていることは現実で、その理解不能の脅威は敵軍に混乱と恐怖を振りまくのには十分すぎる効果があった。やがてエクスカリバーに向かっていく敵機はいなくなってしまった。


魔導機同士の戦いと同様に、ライドキャリアによる砲撃戦は一方的なものになった。敵艦からの砲撃は、バリスタを強化して爆発力を向上させているボムバリスタと呼ばれる砲弾で、サラマンダー砲や、四元素砲を想定して補強されているムサシの装甲に通用するはずもなく、傷すらつけることなく跳ね返している。それに対して、ムサシに主砲として新実装されたイフリート火砲は、敵の大型戦闘用ライドキャリアを一撃で粉砕する。


そんな一方的な展開に、戦闘は長く続かなかった。敵ライドキャリアの約半数を撃沈させた頃合いで、敵兵は完全に戦意を失った。ある艦は白旗をあげ敗北を示し、それ以外は敗走をはじめた。


ほとんどの敵兵が負けを認めても、かの大統領はあきらめていないようで、逃げる味方を罵倒している。しかし、兵たちは恐怖で混乱している為、どんな言葉にも従うことはなかった。

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