第468話 剣聖の成長/ジャン

やはり達人とは恐ろしいものだと再認識する。ルーディア鍛錬を始めた剣聖は、長く生きて色々なライダーを見てきたラフシャルも驚くほどの急成長をみせていた。メルタリア王国王都までの短い期間で、すでにルーディア値は数十倍にアップし、勇太に迫るほどであった。


「信じられない上昇率だ。緩やかに強化されるように考えられたプログラムのはずなんだけどな……」

「なあに、最初にコツを掴めたからな。ようは深層から力を絞り出すイメージが大事で、瞑想と集中のコントロールができれば誰でもきることだ」


ラフシャルの感想に、当人の剣聖はあっけらかんとそう説明する。


「そのコツを掴むまでに普通の人間は苦労するのです。初めて数分で、よしわかったぞ、って言いだした時には我が耳を疑いましたよ」


剣聖の娘であり、これまでルーディア鍛錬で最高の成長スピードを誇っていた猛者も、あまりの常識外の成長率に呆れ気味にそう感想を述べた。さらにルーディア値だけではなく、魔導機操作でもその適応力の高さをいかんなく発揮する。


ラフシャルが強化整備した剣聖の愛機であるエクスカリバーには、馴染みのない新機能が多数実装されたのだが、すぐに機能の意図を理解し使いこなした。それを見てライダーとして触発されたのか、清音やリンネカルロが休息時に模擬戦を申し込んだ。二人は一対一の模擬戦を希望したが、急ぎの移動中だということもあり、二人同時でならと俺は許可を出す。


うちのエースクラスの清音とリンネカルロを同時に相手しての模擬戦だが、驚くような状況となる。元十二傑であり、驚異的な成長を遂げている清音とリンネカルロの二人が全く歯が立たない。清音の剣撃とリンネカルロの魔導撃を軽くあしらう姿に、真の達人の風格を感じる。


「長く医療カプセルで眠っていただけなのに、どうして前より技量があがってるんですか……」

自分の渾身の剣撃がいともたやすくさばかれるのに納得いかないのか、清音がそう抗議する。ともに戦う相棒であるリンネカルロは悔しそうな口調でこう息巻いた。


「まだまだですわ! もう一戦いきますわよ!」

「うむ、良い気迫だ雷帝リンネカルロ。それに比べて清音よ、ごちゃごちゃ言うより、さらに高みを目指して精進するよう心掛けよ。お前は時に理屈っぽくなるのが玉に瑕だからな」

ぐうの音も出ない清音は、言い返す代わりに剣を振ることで応えた。しかし、その剣も剣聖に軽く弾かれる。


「すげえな、今の剣聖には誰も勝てねえんじゃないか」

俺が模擬戦の感想を呟くと、それを聞いていたアリュナも同意する。

「そうだね、ありゃ一種の怪物の類だね。あの二人に渚を加えてもいい勝負になるかどうか……」

「まあ、それでも勇太ならどうにかしそうだがな」

「タイプは違うけど勇太も怪物の類の同類だからね、いい勝負になるでしょ」


どっちにしろ今は剣聖も、俺たち無双鉄騎団の仲間だ。勇太と剣聖、この二枚の切り札があれば、どこと喧嘩しても負ける気がしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る