第464話 好機/ファルマ

あそこにお父さんの仇がいる……そう思うと胸の奥がざわつく。しかし、勇太たちにこれ以上迷惑はかけられない。気持ちを抑えて行動を控えた。


だけど、デアグラフル侯爵の軍に大きな動きがあった。あきらかに戦場とは関係な方向へと動きだしたのだ。


「前線で勇太とナナミが何かしたみたいね。エリシア帝国軍全体が浮足立ってる。だけど、妙ね……デアグラフル侯爵の動きはエリシア帝国軍全体の動きとは連動していないみたい。もしかして単独行動する気?」


エミナの言うようにエリシア帝国軍全体が動き出し、デアグラフル侯爵はそのどの軍とも行動を共にするようには見えない。

「エミナ! もしかして、デアグラフル侯爵は逃亡するんじゃないの!?」

「その可能性はあるわね。話に聞いてるだけだけど義理人情には遠い人物のようだし、寝返ったエリシア帝国すら裏切っても何もおかしくはないわね」

「どうしよう……追いかけた方がよくない?」


ナナミを助けに行った勇太はまだ戻ってきていない。このままだとデアグラフル侯爵に逃げられてしまう。


迷っている間にもデアグラフル侯爵は戦場からどんどん離れていく。もう居てもたってもいられず動こうとした時、エミナがこう判断した。


「しかたないわね、足止めする為に攻撃しましょう。ファルマは進行方向に回り込んで派手に攻撃して動きを止めて。私はライドキャリアに忍び込んで動力を破壊します」


エミナの指示を聞いて私はすぐに動いた。上空からデアグラフル侯爵軍が向かう方向へと回り込む。しかし、エミナはすぐに指示を訂正する声をあげる。


「ちょっと待ってファルマ! そっちにいかないで! 何かくる!!」


デアグラフル侯爵の動きばかり気にしていたので気が付かなかったけど、エリシア帝国の軍から無数に何かが飛んできていた。それはデアグラフル侯爵軍の目に前に落ちて大きな爆発を生む。エミナに止めてもらうのがもう少し遅かったら爆発に巻き込まれていたかもしれない。


デアグラフル侯爵軍は大爆発に驚いたのか、動きを止めた。そして、しばらく怯える子猫のようにじっとしていたが、ゆっくりと船首を変えると戦場へと戻り始めた。


「どうやらエリシア帝国の司令官がデアグラフル侯爵に釘を刺したようね。これで戦場から逃げ出すようなことはないわね」


それを聞いて安心する。これで勇太が戻ってくるのを待てる。


さらに良いことにデアグラフル侯爵はエリシア帝国の本隊から離れ最前線へと向かってくれる。これで他の戦力を気にしないで良い分狙いやすくなった。あとは勇太が戻ったら実行するだけだ。


すごく長い時間に感じた。そしてその時がくる。勇太のアルレオ弐が向かってくるのが見えた。さらにエリシア帝国軍は撤退する動きをみせているので、峠を守る必要ながなくなったからか、アルレオ弐の隣にはヴァジュラ改の姿もある。


私と勇太とナナミ……お父さんが死んだあの日に交わされた三人のかたき討ちの約束が果たされる時が来た──

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