第463話 敗北/クルス

なんなのあの化け物は……十軍神二人がかりでも勝てる気がしなかった……。


私とレイナは命からがら前線から撤退していた。前線部隊を進軍させて、あの怪物級魔導機の足止めをするように命令するのが少しでも遅れていれば、どうなっていたかわからない。


「こ、これは異常事態よ……すぐに本国に報告しましょう」


レイナも怪物級の魔導機に心底恐怖を感じたようで震えながら発言する。まさかの切り札の魔覚醒と互角に戦える相手……さらにそれすら上回る怪物級の魔導機も存在した。これが異常事態なのは私にも理解できた。


このまま戦っていれば、この先、どんな化け物が登場してくるかわからない。今は屈辱の選択ではあるが、撤退するしかないと判断する。レイナもそれに反対することはなかった。よほどあの魔導機に恐怖を感じたとみえる。



「十軍神直属部隊と方面軍本隊は撤退準備をしなさい。それ以外の部隊と軍は、敵の追撃を阻止して殿を命じなさい」


旗艦に戻った私はすぐにそう指示を出した。殿を命じるのはあの怪物魔導機の追撃を恐れてのことだが、そこまで詳しくは話さない。


「それは……下部部隊はお見捨てになるということですか?」

幕僚の一人が部下を思ってかそう発言する。


「殿をお願いするだけです。生きて帰ればそう相応の武勲を与えますし、名誉ある任務だと思いますが違いますか?」


そう言うと言い返す言葉が見つからないのか押し黙った。


あの魔導機の強さを実感していない者にはこの撤退を理解できないようだ。部隊長クラスからも抗議の声が聞こえてくる。確かに私も同じ立場であれば同様の反応をしたかもしれない。その考えは理解はするが、私に逆らう愚かな行為を許すのは別問題である、抗議した部隊長にはそれ相応の罰を与えた。


西方方面軍司令としての敗北……受け入れられない事実となるが、敵側の想定外の戦力が強力すぎた。これは事前に情報を得ることができなかったエリシア帝国情報部のミスでもあり私だけの責任ではない。しかも絶対的切り札だと言われた魔覚醒が通用しなかった。これはラフシャルの重大な過失なのはいうまでもない。私には十分、自分に非がないとことを主張するだけの根拠が揃っている。だから撤退することに不安はなかった。


本隊を先頭に撤退は開始された。敵軍は追撃をおこなう素振りはみせなかったが、こちらを油断させているとも考えられる。予定通り殿による敵軍の追撃阻止は実行される。


撤退中のなか、例の連合国の裏切り者である貴族の軍が不審な動きを始めた。殿の人を与えたはずだがそれを遂行する様子はうかがえない。まあ、もともと信用など微塵もしていなかったが、こちらが不利になったと知った途端に手のひらを反すのは良い気持ちはしない。私は部下にこう命令した。


「デアグラフル侯爵の軍の進行方向に砲撃させなさい」


その命令はすぐに実行された。ライドキャリアの砲門から放たれた砲弾が炸裂して、派手に爆発と爆音響かせた。


「最後通告としてデアグラフル侯爵に伝えなさい。殿の任を拒否するなら、エリシア帝国から死の制裁が下ると」


祖国を裏切り、エリシア帝国にまで見捨てられたらこの大陸で生きていく場所はないだろう。デアグラフル侯爵もそれは十分理解しているようで、渋々ながら殿として後方へと移動を始めた。

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