第443話 想定外/クルス

「クルス司令官、敵の残党は援軍と合流してダイナモス峠に布陣したようです」

敵の動向を確認したところ、そんな報告を受けた。


「ダイナモス峠、なんなのそれ?」


「ここより南にある峠です。入り絶った渓谷の先にあり、守りやすく陣地に適している地形なので、そこに布陣されたとなると少し厄介ではあります」

「そう、それでは全軍をその峠に向けて進軍させなさい」

「よ、よろしいのですか!?」

「よろしいもよろしくないも、敵はそこにいるのでしょ? 向かわないと殲滅できないじゃないの」

「しかし、地理的優位は敵にあり……」

「問題ありません。烏合の衆がちょっと固い甲羅に籠ったところで、猛獣の群れに変わるわけではありません」


「りょ、了解いたしました。全軍に進軍の指示をだします」


数でも質でもこちらが圧倒していることもあり、多少の地理的不利など無視することにした。さらに言うなら、こちらには地理的不利を振り払う切り札もある。負けるイメージは微塵もなかった。


「クルス様、デアグラフル侯爵が行動の自由を願い出ていますがどういたしますか」

「あら、この戦いは自分には関係ないとでも思っているのかしら。デアグラフルの私兵の兵力はどれくらいですか」

「はっ、ライドキャリア三隻に魔導機57機です」

「そう、十分戦える戦力ですね。友軍として正式に戦闘の参加要請をしてください。そうね、本当は最前列で弾避けにでもなってくれるとありがたいですけど、邪魔になりそうだから、右翼にまわして囮にでもなってもらおうかしら」

「はい、すぐに伝えます!」


もう利用価値もないのだけど、このまま自由にするのも面白くない。派手に戦死でもしてくれると笑えるのだけど、敵にそんな甲斐性もないから期待できないかしら。



ダイナモス峠に到着すると、全軍に戦闘態勢をとらせた。陣形を整え、あとは攻撃命令を出すだけというタイミングでそれは起こった。


「クルス司令官! 飛行する魔導機が二機、こちらに接近してきました!」

「飛行!? あの無能国家連合に実践レベルで使える飛行能力を備えた魔導機があるなんて聞いていませんよ」

「どうやら正規軍の魔導機ではないようです。どういたしますか」

「ふっ、第三大隊に対空戦闘態勢をとらせなさい。あと、念の為に飛竜師団に出撃準備をするように伝えて」


飛竜師団は切り札の師団で、エクスランダーのみで構成されたエリート部隊だ。まあ、たった二機の飛行魔導機に出撃させることもないと思うけど、以前、たった二機の魔導機に痛い目を見せられた経験もあるので、準備だけでもしておくことにした。


「クッ、クルス司令官!! 上空の敵から高濃度の魔導撃反応があります!」

「なんですって!!」


急いで敵の見える位置に移動すると、ブリッジの大きな窓から自分の目で確認した。


大きな翼を持つ魔導機がアローを放った瞬間だった。アローは分裂してみるみるうちに無数の光の雨となって、こちらに襲い掛かろうとしていた。


「全軍シールド展開!! 対魔導撃防御態勢をとりなさい!」

通信兵から機器を奪い取りそう命令した。すぐに全軍のライダーたちに伝わったのか、軍全体に青白い光が一気に広がっていく。リュベルやヴァルキア、ラーシア王国との戦いを想定して準備していたシールド武装をまさか、弱小国家連合相手に使うことになるとは想定外だ……私は、以前に想定外の力に敗れて敗北した経験を思い出していた。


くっ……あんな敗北は二度と御免被りたい。しかし、心配する必要もないだろう。相手はリンネカルロでも、あの伝説の魔導機を動かしたライダーでもないのだから。


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