第433話 久しぶりの母国/ファルマ

ルダワンに到着すると、すぐにデアグラフル侯爵邸へと向かった。ルダワンの国境なので、多少の戦闘を覚悟していたけど、どういうわけか軍の姿をみることもなかった。


さすがに侯爵邸には守備隊がいるとおもったけど、そこにも一兵の姿もみえない。少し嫌な予感がする。デアグラフル侯爵がいればこの警備の状態はありえない。


屋敷の様子を望遠モニターで探ってみるけど、人の出入りもなく使用人すらみかけることがない。もしかしたら無人なのかと思いかけた時、裏口を出入りする人影を見つける。


人影は裏に止めていた馬車に乗り込み、どこかへ移動しようとしていた。少し強引ではあるけど、状況がわからないと動きようもないので、思いっ切ってその馬車の人物に話を聞くことにする。私はガルーダで馬車の進行方向に回り込むと、その前に立ちはだかった。


いきなり魔導機が目の前に現れて、馬車に乗る人物は恐怖の表情で驚き、馬車から飛び降りて逃げようとする。私はそれを制止した。


「待ってください。危害はくわえません、少しお聞きしたいことがあるだけです」


できるだけ丁寧に話しかけたつもりだったけど、馬車の人物には恐怖にしか感じていいないようでブルブルと震えて怯え、私の話を聞いているのかもわからない。あきらめずゆっくりと語り掛けるように話を聞くと、少しだけ落ち着いてきた。私は簡潔に質問した。


「そこの屋敷の主人、デアグラフル侯爵はいないようですけど、どこにいったかわかりますか」

「や、屋敷にはもう誰もおらん……みんなエリシア帝国にびびって逃げてしもた」

「デアグラフル侯爵も逃げたのですか?」

「侯爵やその家族は一番最初にいなくなった。使用人や警護の兵は少し前まで残っていたが、いよいよエリシア帝国が近づいてきているのを聞いてたまらずここを離れたんじゃ。軍務大臣の屋敷などにいたら何されるかわかったもんじゃないからの」


すでに国内の統率は崩れ、崩壊していっているみたいだ。国境に軍がいなかったのもそれが関係しているのかしれない。


どうやらこの人物はデアグラフル侯爵の居場所の情報を持っていないようだった。これ以上話を聞いてもしかたないので、解放して、私も移動することにした。


ここは一応は母国である。私にも知り合いの一人や二人はいる。近くに親戚のおばさんが暮らしているのを思い出し、情報を聞く為に向かう。



山奥の小さな屋敷に住んでいるおばさんは、私の訪問を歓迎してくれた。私がこの国から逃げたことによって、何か国から危害を加えられなかったか聞いたが、ただ微笑んで大丈夫だったとしか言ってこない。この反応からすると、何かしらの嫌がらせは受けたかもしれない。おばさんに申し訳ない気持ちになる。


「ファルマが無事なのがなによりだよ。いま、暖かい食事を用意するから待ってなさい」


おばさんはお母さんの妹で、こんな姿になっても優しく接してくれた数少ない人である。そんなおばさんにはと、私がここにきた理由を説明した。


「まさかデアグラフル侯爵がベルファウストさんを……」

おばさんは、驚いていた。しかし、何か心当たりがあるのか、こう話を始めた。


「いい、ファルマ。これはベルファウストさんに止められていたから話したことなかったけど、貴方のお母さん、イベルマ姉さんはデアグラフル侯爵に殺された疑いがあるの……」


それを聞いて心臓が止まりそうになる。お母さんの笑顔が頭に浮かんでくる。張り裂けそうになるほど胸が痛くなり、なんともいえない感情が湧いてきた。

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