第432話 西方の謀略/クルス
デアグラフルが提案してきたのは、確かに興味深い内容であった。西方国家13か国にて、エリシアに対して軍事共闘の動きがあるというものなのだが、その情報だけには興味なかった。しかし、デアグラフルはそれも想定していたのか、こう言う。
「軍事共闘の動きを全て、クルス様にお伝えいたします。そうすれば楽に西方を攻略できることになると思うのですが」
「あら、貴方は母国を裏切ると言うのですか?」
「母国……そんなもので自分の命が助かるのなら安いものです。所詮はただ生まれたた地に存在した共同体などに、なんの思入れもありませんよ」
「いいわね貴方、わかりやすくて。そうね、その情報があれば随分と楽ができそうですね」
西方の弱小国家がいくら集まろうが物の数ではないのだけど、楽ができるのならそちらの方が良いに決まっている。この男の命などに興味もないので、有意義な情報の為に命を助けてやるのも悪くない。ただ、追加の条件をつけることにした、こういう男は、相手が自分と同じように貪欲な姿勢を見せると安心するので、その方がお互いによいだろう。
「しかし、情報だけでは足りません。こちらから指示をしますので、ルダワンをはじめとする共闘する国々をこちらの都合に合わせて動かしてもらえますか」
小国といえど、軍務大臣の地位にいるくらいなら、それくらいの器量はあると判断した。その提案にデアグラフルはいやらしく微笑むと、何度も頷いてそれを了承する。これにより、自分の命が助かったことを理解したようだ。
デアグラフルは下がらせると、すぐに別件の報告がもたらされる。それは元母国であるメルタリアに張り巡らした策謀の一つの経過報告だった。
「それで、メルタリアの周辺国家は動きそうなのですか」
「はい、メルタリアは我が、エリシア帝国と繋がっていて、周辺国家を売り飛ばそうとしていると疑心暗鬼に陥っています。今にもメルタリアに攻め入ろうと軍を動かしている状況です」
「そう、私が西方侵攻軍の司令官だというのを公開した結果かしら」
「はっ、クルス様が元メルタリア軍総司令官という経歴だとういのは、かなりの説得力になったかと」
ふっ、本当はただその母国に恨みがあるだけなのだけど、そんなことは夢にも思わないでしょう。
いくら弱小国家ばかりの西方諸国でも、団結されては厄介なので裏で幾つかの策謀を動かしていた。その一つがメルタリアと周辺国家を争わせるものなのだが、それは上手くいきそうだ。メルタリアにはあのリンネカルロや、白い魔導機がいる。周辺国家と共闘して反抗してきたら一番の障害になるのは間違いなかった。なので先手を打った形だ。
「さっそく軍議を開きます。レイナにこちらにくるように連絡なさい」
そう命令すると、副官は少し懸念を示した。
「はっ、しかし……十軍神の序列ではレイナ様の方がクルス様より上です、ですので、ここへ呼びつけるのは少し具合が悪いように思えます。どこか別に軍議場所を用意してはいかがでしょうか」
その提案はもっともな意見だが、私の癇に障った。腰に付けた短刀を抜くと、副官の足を斬りつけた。斬られた個所を抑えながら副官は蹲る。そんな無能な男にこう言い放つ。
「序列など関係ありません! 西方方面軍の司令官はこの私です!」
通常なら序列の上の方が司令官となるのだが、私とレイナでは指揮経験に大きな差があった。もちろん、そうなるように動きはしたが、帝国もそれを認めて私を司令官に任命した。ルーディア値が高いだけの小娘の下に着くなど考えたくもない。
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