第431話 西方の策略/クルス
「クルス様、ルダワンからどうしてもお目通りをお願いしたいと男が訪ねてきておりますがどういたしますか?」
守備隊の部隊長からの報告に、静かな口調で応える。
「夏は家族と有意義な休暇が送れそうですか? それとも念願のマイホームでも購入できそうになりましたか?」
私の質問の意図がわからないのか、部隊長は心底困った顔をする。なんとも鈍い反応にイラつきながら教える。
「その人物からあなたが貰った賄賂の額を聞いているのです」
「あっ、はっ! 申し訳ありません! 1000万ゴルドほど手渡されまして……すみません……」
戦争になる相手国の人間が訪ねてきて、普通に目通りを報告するなどありえない。そこに金銭が絡んでいることは当然の如く予想できる。賄賂については別にどうでもよかった。問題はその人物がどのような人間なのかが重要だ。
私は、いち部隊長に1000万ゴルドも賄賂として握らせるくらいの器量があるなら会おうと判断した。
「通しなさい」
「おっ、お会いになるのですか!?」
返事の内容に関係なく、話を通すだけで1000万を貰う約束だったのだろう。部隊長もまさか私が会うとは思って無かったのか驚く。
「二度は言いませんよ」
「はっ、申し訳ありません。すぐにお連れします!」
私の怒りを察したのかすぐに返事をし直す。無能な部下ばかりなので慣れてきたとはいえ、やはり腹が立つのは変わりない。
「お初にお目にかかります。私はルダワンの軍務大臣、デアグラフルと申します」
連れてきたのは小太りの初老の男性だった。軍務大臣の地位にふさわしく、醜く肥えている。
「そう。それでそのルダワンの軍務大臣さんが私にどのような用件があるのかしら?」
「お話の前にこちらをどうぞ、貴方のような美しい女性に相応しい品にございます」
差し出してきたのは箱一杯に入った宝石であった。良い輝きのある物もあり、かなりの価値がありそうだ。
「あら、そんな良い物を頂いて、私に何をさせようと思っているの」
「いえ、こちらはあくまでもご挨拶でして、ただのプレゼントにございます」
「なら遠慮なく頂きましょう」
宝石の嫌いな女などいない。ただでくれると言うなら貰わない理由もない。しかし、これにより少しでも本題の話に色が付くとは思わない方が賢明なのだが、その辺も十分理解しているようだ。
「それでは本題なのですが、一つ質問をしてよろしいでしょうか?」
「内容によります。話してみなさい」
「はっ……ルダワンに対する侵攻ですが、おやめになる可能性などはありますか」
「ありません。予定通りに殲滅いたします」
さらっと答えるとは思ってなかったのか、少し動揺している。
「そっ、それでは私の命はどうなりますか……」
「ルダワンの軍務大臣なら絞首刑でしょう。命乞いするつもりなら相当額出さなければ無理でしょうね。おそらく、お金持ちの貴方にも払えないような額は必要でしょう」
「わかりました。なら話は早い、私はまだ死にたくありません。ですので、生きる為にどんなものでも提供させていただきたいと思っています」
「あら、言ったでしょ、お金持ちでも払えるような額じゃないと」
それは賄賂は通用しないという意味なのだけど、デアグラフルはおくすことなくこう提案してきた。
「いえ、私の提供するものは金銭ではございません。もっとエリシア帝国様にとって有用なものでございます」
それを聞いて少し興味がでる。続きを話すようにデアグラフルに促した。
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