第430話 焦りと憤り/ファルマ

エリシア帝国から仇であるルダワンが狙われているとニュースが入ってきた。内容からルダワンに勝ち目はなく、本格的な侵略が始まると滅亡するのは目に見えていると書かれていた。


お父さんの死の瞬間を思い出し、キュッと胸が痛む。悲しみと一緒に、心の底に押し込めていた怒りが溢れてくる。ルダワンなんて、このままエリシア帝国にやられちゃえばいいんだ……そんな悪い気持ちが浮かんでくる。


勇太が剣聖さんの蘇生から戻ってきたら相談して、どうするか決めようと考えていたのだけど、時間がそれを許してくれなかった。


エリシア帝国が本格的な侵攻を開始したと続報が入り、さらにシスター・ミュージーに頼んでいた、ルダワンの調査報告がもたらされた。そこには、驚くようなお父さんの死の真相も書かれていた。デアグラフル侯爵……嫌な人物だったのは覚えている。私の家に嫌なことばかりしていた……。そんなデアグラフル侯爵が、意図的にお父さんが死んだ原因を作ったことを知り、頭が真っ白になるくらいのショックを受けた。


お父さんはナナミを強引に奪う際に、偶発的に起こった事故で死んだものだと思っていた。だから許せないけど、我慢できるほどに抑えることはできた。でも、お父さんが悪意によって殺されたとなると話は別だ。今までくすぶってきていた怒りの感情が抑えられなくなった。


エリシア帝国の動きは早く、数日単位の短い期間で、ルダワンは陥落すると予想された。勇太はまだいつ帰ってくるかわからない。デアグラフル侯爵は軍務大臣という地位にいるから、おそらくルダワンが陥落したら捕まって処刑されるだろう。


いやだ……お父さんを殺した人物が他人に裁かれるのが我慢ならなかった。気が付いたら私はガルーダⅡに乗り込んでいた。


みんな暴走している私を止めてくれる。心配してくれているのはわかるけど、今の私にはルダワンに向かうことしか考えられなかった。


全ての通信を遮断して、無我夢中でガルーダⅡを飛ばす。高速ライドホバーよりも早い速度で空を飛び、一直線でルダワンへと向かった。


飛行中、デアグラフル侯爵のことを考える。まだ、私がこんな姿になる前に、一度、直接会ったことがあったのを思い出す。


お父さんに連れられ、家を訪ねてきたデアグラフル侯爵は笑顔で私に挨拶をした。だけど、その瞳の奥は笑ってなどいなかった。どちらかというと、その瞳には憎しみすら感じた。子供心に、この人は私のことを嫌いなんだ。そう感じるほどに、異様で気持ち悪い目でみていた。


もしかしたら……あの恐怖と不快感を感じたデアグラフル侯爵の目つきを思い出すと、ある考えがふと浮かんだ。


この私の呪いはデアグラフル侯爵が……ありえることだ。あの私を見る目はあきらかに私の存在を嫌悪していた。恨みすら芽生えてもおかしくはない。


お父さんを死に至らしめ、私に呪いをかけた。そこまで考えて、もっと恐ろしい想像をしてしまう。お母さんの死にも関係していたら……── 許せない……そうだったら絶対に許すことなどできない。知らず知らずのうちに、操作球を握る手に力が入る。怒りと、悲しみの感情がどんどん溢れてきておかしくなりそうだった。

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