第421話 宴

即席のテーブルには所狭しと料理が並ぶ。メニューも多彩で、どれもこれも美味しそうだ。


ジャンが簡単にこの食事会の趣旨を伝える。

「え~ みなさんが無事生還したことと、我らに新しい仲間が加入したことを祝して、今日はささやかながら宴の用意をさせていただきました。間に合わせの料理と酒ではありますが、存分に堪能してください」


普段のジャンを知っている俺たちには少しかしこまった言い方が笑えるが、イプシロンコアだった人たちは真面目に聞いている。自分たちの為にこんな席を設けてくれてと、涙ながらに感謝する人までいるほどだ。


ジャンが言葉を言い終えると、みんな一斉に料理に手を伸ばす。もちろん俺もご相伴にあずかる。腹が減っていたこともあり、まずは豪快な肉料理に手を付けた。


「またそうやって肉ばっかり食べて……野菜もちゃんと食べないとダメだよ」

渚がサラダを食べながら俺に小言をいってくる。昔から一緒に飯を食べる度に小言を言われるから、また言い始めたくらいにしか感じなくなっている。気にしないで自分の拳くらいある肉塊を頬張る。信じられないくらいの量の肉汁が溢れ出してきて、一気に肉の旨味が口の中にひろがる。


「こりゃ美味い! 渚も食ってみろよ」

「え~ なんかやだな……ぎとぎとだし、てかりがカロリーの量を物語ってるじゃない」

「なんだよ、いっちょ前に太るの気にしてるのか?」

「いっちょ前ってなによ! 気にしない女の子なんているわけないでしょ」

「毎日体動かしてるんだからこれくらい平気だろ?」


渚は暇さえあればなにかしらゴソゴソと動き回っている。稽古らしいけど、あれだけ動いていれば多少食べても太るとは思えない。


「じゃあ、少しでも太ったら責任取ってよ」

「責任取るってどうするんだ?」

「えっ!? そりゃ、私と……」


そう言いかけた時、マウユが体当たりするくらいの勢いで俺に抱き着いてきた。


「ぐはっ!」

「お兄ちゃん!」


マウユの登場に渚は露骨に嫌な顔をする。別に彼女のことを嫌っているわけではないとは思うが、なんとも調子を狂わされているみたいで相性は悪いみたいだ。


「マウユ、ちゃんと食べてるか?」

「いっぱい食べてるよ!」

しかし、そのマウユの言葉を否定する密告が横から入った。


「その子、甘い物ばかり食べていましたわ。ちゃんとした食事もするように言ったほうが良いですわよ」

栄養バランスが取れているようにみえるワンプレートを手に持ち、リンネカルロが現れる。さらに俺の顔を見て、何かを思いついたようにこう言ってきた。


「勇太、ほら、これ凄く美味しいですわよ。一口食べるといいですわ」

リンネカルロは自分のプレートから、程よい大きさの魚の切り身をフォークで差すと、俺の口に近づけてきた。嫌がるのもあれだし、急にすすめられたこともあって、思わずその魚の切り身をパクリと食べた。確かに脂ののった濃厚な旨味に程よい塩加減、独特の香辛料がまた良い味をだしている。確かに美味しい料理だ。


「ちょっとリンネカルロ! そんな脂っこそうな料理食べさせないでよ!」

それを見ていた渚は、何故か焦ったようにそう抗議する。


「どうしてですの? 美味しそうに食べたじゃないですの」

「味の問題じゃないよ! さっき濃厚な肉料理食べたばかりだから次はあっさりした野菜料理を食べさせようと思ったの!」

「若いんだから問題ないですわよ。ほら、勇太、もう一口食べるですわ。ほら、あ~ん、しなさい」

「やめなさい!」


渚とリンネカルロの言い合いが始まってしまった。巻き込まれたくないので、ゆっくりとその場を離れていった。

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