第420話 日頃の感謝を
ジャンや清音、それにイプシロンコアの女性たちが宴会の料理を作り始めた。作った料理は宴会場となる格納庫のすみに置かれたテーブルに並べられる。ミライの食堂にこの人数は狭いので、ここを会場にすることになったのだが、格納庫には魔導機が並べられているので、やはり狭く感じる。
オヤジの歓迎会と、マウユやイプシロンコアの人たちとの交流会との名目で宴会がおこなわれることになった。まあ、酒を手に入れたのでただ飲みたいだけだと思うのだが、ジャン曰く、こういのも大事だからな、ということで盛大やることにした。
宴がはじまると、おそらく自由に動けなる気がするので今のうちに町で購入したプレゼントを渡すことにした。
「マウユ、ほら、これ」
「えっ!? 私に?」
「そうだよ」
悩んだ挙句、マウユへの買ったプレゼントは動物のぬいぐるみであった。見た目は大人なのでどうかとも思ったが、精神年齢を優先させた。この判断は正解だったようで、マウユは強烈に喜び距離感云々など忘れたように抱擁してくる。
私にはないのですの? と拗ねそうなので、リンネカルロにもプレゼントを買っていた。女の子へのプレゼントなんてあまり考えたことないので悩んだ末に、無難に彼女が普段使っている物を購入した。
「髪留めですわね。これはなんですの?」
プレゼントで買ったのは黄色い宝石の付いた髪留めで、それを渡すと、リンカルロは不思議そうにしていた。
「今回の件では世話になったからね。つまらないものだけど、お礼のプレゼント」
「私に……プレゼントですの!? べ……別に嬉しくなんてありませんわよ! だけど、くれると言うなら貰ってあげますわ」
そう言うとリンネカルロは、俺から手渡された髪留めを大事そうに持ってどこかへ歩いていく。かなりぎこちない動きだけど大丈夫だろうか。
みんなにプレゼントをあげて、新しく仲間になったエミッツやミルティーにあげないのも変なので、彼女たちにも用意していた。
二人にプレゼントを渡すと、心底驚いている。今まで人から何かを貰うということがなかったらしく最初は戸惑っていたが、少しつづ実感が出てくると凄く喜んでくれた。特に高い物ではなかったので、逆に恐縮してしまう。
ジャンには、調理中の隙を見て魔導力式の懐中時計をあげた。いつも使っている物がボロボロなのを見ていたので、市場で見かけて即決で買ったものだ。
「馬鹿野郎、俺にこんなものくれるくらいなら渚やリンネカルロに何か買ってやれ」
「大丈夫、二人にもちゃんと用意したから。後、ついでに留守番しているナナミたちにもお土産を買っている」
それを聞いたジャンは少し驚いていた。しばらく呆けていたが、驚きの表情を崩すと、照れ臭いように笑った。
「なんだよ。そんな気を使えるようになったのかよ……まあ、そういうことならありがたく頂いておこう」
そう言うと、懐中時計を大事に懐にしまった。
最後に渚にプレゼントを渡そうと思って探すが見当たらない。清音に聞くと、上部デッキにいったみたいだと聞いた。そんなところで何してるんだと思いながらも行ってみた。
フガクやムサシに比べると小さなミライだが、上部デッキから見る景色は、ちょっとしたビルの屋上くらいの高さは感じる。渚はそこで一人遠くを見ていた。
「よう、こんなところでなにしてんだ」
渚は声で俺だとわかったのか、特に振り向くこともなく答える。
「ちょっと色々考えてた」
「色々?」
「この世界のこと、アムリア連邦のこと、クラスのみんなのこと……それとやっぱり家族のこととか……」
渚は人一倍、家族思いだったからな……随分会っていないし心配のようだ。
「まあ、家族の代わりにはならないだろうけど、ほら、これやるよ」
「なにこれ?」
渚に手渡したのは犬のような動物をモチーフにした木彫りの彫刻であった。これだけでは意味がわからないので、説明する。
「この地方に伝わる御守りだそうだ。家内安全、健康祈願、なんでもござれの万能ご利益だから、どんな難解な願いも聞いてくれるぞ」
「どうしたのよ急に、変な物でも食べた?」
「いや、こっちにきて暦がよくわからなくなっていたから、毎年やってた誕生日プレゼントもあげてないだろ? なんだかんだ言っても迷惑かけてるし、日頃の感謝をこめてってやつだ」
渚はそれを聞くと、手にした彫刻をじっと見つめた。そしてクスクスと笑い始めた。
「毎年思ってたけど、本当にプレゼントのセンス無いよね」
「なんだよ、それ選ぶのにも相当時間がかかってるんだからな」
「わかってる。ありがとう……本当に嬉しい」
どうやら木彫りのデザインの良さに気付いたようで、ようやく喜びが込み上げてきたのか嬉しそうに御守りを眺める。最初はセンスないとか文句を言うが、いつも最終的には嬉しそうにするんだよな……渚はどうやら良さに気付く感性が鈍いようだ。
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