第418話 国境越え

本人たちとの話し合いの結果、イプシロンコアの人々はアムリア連邦に連れていくことになった。移民として受け入れてもらえるように、アムリア連邦の国家元首のラネルに話をすると快く受け入れてくれることになった。


「ラネル何か言ってた?」

通信を終えた俺に、渚が声を掛けてくる。

「いや、俺たちが帰ってきたら、人質の返還を進めると言ってたくらいだな」

「それだけ?」

「どうした、話でもあったのか? だったら一緒に通話に入ればよかったのに」

「ううん、別にこれといって話があったわけじゃないけど、アムリアの状況が気になっただけ」


俺たちと一緒にいるけど渚はアムリア連邦の所属だからな、国の様子が気になったようだ。


「それより、リュベル王国の国境を越えたら町によって買い出しをするって言ってたよ。久しぶりの買い物だからちょっと楽しみ」

「そっか、人数が増えたから食料が足りないのか」

「それもあるけど、剣聖さまがお酒を所望してるからって言ってた」

「なるほどな、確かにお酒はあまり持ってきてなかったから、今ある分じゃ、オヤジの晩酌にも足りないか」


「いた! お兄ちゃん見つけた!」


渚との会話を中断させるように、マウユが走り寄ってくる。終始俺の近くにいたのだけど、ラネルとの通信の邪魔になるので清音に頼んで離してもらっていたが、どうやら見つけられたらしい。兄として慕ってくれるのは嬉しいけど、四六時中ベタベタされるのはちょっと考え物だな。


「マウユ、いいか、あまり人前でこういうふうにベタベタしてくるのはよくないぞ」

「どうして?」

「どうしてもだ。ほら、渚お姉ちゃんが嫌な顔してるだろ」

「ほんとだ、凄く怖い顔してる」


マウユがベタベタしてきた時から嫌な顔をしていた渚だが、その俺のふりでさらに形相が変わる。どうやらマウユへの教育に利用されるのがばれたようだ。しかし、マウユの精神状態が不安定で、俺を兄として慕うことで安定を図っているのを知っているだけに、露骨に拒否することもできず、ひきつった笑顔でそれに協力する。


「そうよ、マウユ。いい、人と人には距離感ってのがあって、兄と妹でもそれは守らないと恥ずかしいことなのよ。いくら大好きなお兄ちゃんでも、いつもくっついていたらダメなの」

「そうなんだ……」


なんとも適当な言葉だが素直なマウユには効果があったようで、嫌々ながらも俺から離れる。これで少しはベタベタするのをやめてくれると嬉しいのだけど……。



リュベル王国の国境まで来ると、監視部隊は儀礼的に最後のメッセージを送って来た。おそらく何事もなく、あの部隊の隊長もホッとしていると思う。


国境を越えると、すぐに近くの町へと立ち寄った。リュベル王国を抜けたと言っても、アリュナたちがいるアムリア連邦シャルカまではまだまだ距離がある。食料も乏しく、なによりオヤジの酒がなかった。


「よし、勇太、清音、酒を買うから付き合え」

オヤジに誘われて、それに同行することになった。マウユやリンネカルロも付いてくると言い出したが、酒の買い出しにそんな人数いらねえだろ、他にも買う物あるんだから分散するぞ、とジャンに怒られて渋々諦めてくれた。


酒や食料以外にも、イプシロンコアの人たちの衣服や生活用品なども購入する予定で、マウユの服や身の回りの物も買わないといけない。俺たちは三組に分かれて、買い出しに向かった。

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