第417話 説明とこれから
「お兄ちゃん!」
マウユは、そう言ってまた抱き着いてこようとしたがリンネカルロに首根っこを掴まれて止められる。
「ちょっと! 勇太のどこがお兄ちゃんなのですの! どう見ても貴方の方が年上に見えますわよ!?」
俺もそう思うが、マウユは何を言われているのか理解できていないようだ。リンネカルロの怒りの言葉に対してこう返す。
「お姉ちゃん嫌い! 勇太お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから! 絶対そうなんだから!」
そんなふうに反撃されると強気のリンネカルロも一瞬戸惑った。その隙にマウユは俺の胸に飛び込んできた。
「ちょっ、ちょっと!」
我に返ったリンネカルロがまた何か言おうとしたが、フェリがそれを制止する。そしてこう説明した。
「どうやら精神の修正と再構築のさいに、勇太の精神と繋がったことで記憶の改ざんがおこなわれたようです。彼女には勇太は大好きな兄であり、心の支えとなっていますので、あまり強く否定するのはよくありません」
本人の前で堂々と説明しているけど、とうのマウユは聞こえて無いのか気にしてないのか、まったくフェリの言葉に反応していない。ただただ俺の匂いを嗅いだり、きゃっきゃっと嬉しそうにじゃれてくる。それを見てリンネカルロと渚が絶妙に嫌な顔をしているが、フェリの説明を聞いて何もできなくなったのか、ただ俺を睨みつける。そんな目で見られても……。
兎にも角にもオヤジとマウユが無事に目覚めた。無事に全ての目的が達成されたので心の底から一息つける。そう思っていたけど、まだまだ考えないといけないことがやまほどあったようだ。イプシロンコアにされていた人たちをどうするのかとか、オヤジが復活したことで解散した剣豪団をどうするのかとか、難しそうな問題がどんどんでてくる。
「ハハハハッ── そうか、俺は死んでいたのか、そりゃ面白い」
これまでの経緯をオヤジに説明したのだが、なんとも自分が死んでいたことを他人事のように面白話としてとらえているようで、終始豪快に笑いながら聞いている。
「笑いごとじゃないぞ。俺や清音がどれだけ苦労したかわかってるのか」
「そうですよ、父上。剣豪団も解散しましたし、面白がっている場合じゃないですよ」
「ハハハッ── すまんすまん、お前たちには苦労かけたみたいだな。あっ、それに勇太の仲間の人たちもだな。こんなおやじを生き返らせる為に苦労かけて申し訳ない」
渚は別として、有名な剣聖にそう言われてエミッツやミルティーはもちろんだが、ジャンや、十二傑として同格のはずのリンネカルロですら恐縮している。オヤジは俺の思っていた以上に高名な人物のようだ。
「それより、オヤジ、剣豪団どうするんだ? もうみんなちりじりになってるけど」
「自然と戻ってくる連中を拒否することもないが、無理に連れ戻して剣豪団を復活させるつもりはない。俺にとっては弟子や孫弟子は大事だが、剣豪団って組織に執着はないからな」
「じゃあ、これからどうするんだ?」
「しばらくはお前のところで厄介になろうと思う。まあ、食い扶持分の働きはするから安心しろ」
オヤジの性格ならこの展開はありえると予想していた。しかし、面識のないジャンは素直に驚いている。
「剣聖が無双鉄騎団に!? そりゃ願ってもないことだが、剣聖に見合った報酬を用意できるか……」
「ハハハッ、そんなことは気にしなくていい。まあ、この歳で無収入は辛いから、いらぬとは言わぬが皆と同じで問題ない」
元々金に執着するような人間ではないので、本音でそう言っていると思う。ジャンは、しかしそれでは……、と納得はしていないようだ。
「あっ、オヤジ、うちにくるならお願いしたいことがあるんだけどいいか?」
オヤジが無双鉄騎団に入ることを想定して少し考えていたことがあった。いい機会なので頼んでみることにした。
「俺でにできることならなんでも言ってみろ」
「無双鉄騎団の剣術指南役になって欲しいんだ」
同年代の清音に剣を教わるのには抵抗がある人間もいるだろうが、みんな剣聖だったら素直に教えをこえると考えた。オヤジは少し考えてからこう返事する。
「受けるからには厳しくするがよいか?」
「もちろん。厳しく教えてもらわないと意味がない」
その返事にジャンや清音、それに渚などは喜んでいるがリンネカルロの顔色はみるみる悪くなっていった。
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