第416話 ひと騒動

目覚めたオヤジは俺を見つけ声をかけてくる。


「なんだ、勇太、こんな朝早くに稽古つけて欲しいのか?」

「まあ、それもありだが、今はとりあえず何か着たらどうだオヤジ」

「おっ、なんだよ、酔っぱらって裸で寝てたのか」


自分が素っ裸だということにようやく気が付き、周りにフェリやリンネカルロ、渚など女性だらけの状況でも気にするそぶりもなく、清音が用意していた衣服を着替え始めた。もちろん女性陣たちを殿方の裸を凝視するようなはしたない真似はせず、全員後ろを向いて着替え終わるのを待った。


「よし、着替えたぞ。それにしても美人さんだらけだな。どこのお嬢さんたちだ?」

女好きも相変わらずのようで、フェリやリンネカルロを見る目がちょっと不謹慎である。

「紹介は後だ。もう一人、目覚める人間がいるから、ちょっと待ってくれ」


すでにフェリはマウユの医療ポッドの操作に取り掛かっていた。オヤジはそちらを見て頷いた。

「そうか、まあ状況を含め後でゆっくり聞くとしよう」


聞き分けがいいので助かる。つもる話もあるけど、今はマウユの目覚めも大事だ。


オヤジの時と同じように、マウユの医療ポッドからもプシューと気体が射出される。どうやら目覚めの時がきたようだ。ゆっくりと医療ポッドが開かれる。すぐにそこに近づこうとしたが、渚に止められた。


「ちょっと勇太! あの子まだ何も着ていないから、近づいちゃダメ!」

「あっ、そうか忘れてた」

そう言うと後ろを向いて見ないようにした。


「父上もです! どさくさに紛れてなにしているのですか!」

どうやらオヤジは確信犯で医療ポッドに近づこうとしたようだ。清音にブツブツと怒られて俺の隣に立たされた。


俺の隣に立つオヤジはいたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべる。死ぬ前とまったく変化の無いことが嬉しくなってきた。


「どう、どこも調子は悪くない?」

「お姉ちゃん誰?」


マウユの声だ。どうやら目覚めたようだ。


「私は渚よ。ちょっと待ってね、少し小さいかもしれないけど、私の服を持ってきたから」

渚がそう言った瞬間、マウユの大きな声が響く。

「あっ!!」

「ちょ、ちょっと! 服を先に……──」


何が起こったんだ? そう思った瞬間、背中にドスンッと衝撃を受けた。衝撃の後にはなにやら柔らかい感触が背中に残る。そして耳元でマウユの甘えた声がした。


「勇太お兄ちゃん! やっぱり勇太お兄ちゃんだ!!」


どうやら俺を見つけたマウユが服を着るより先に、抱き着いてきたようだ。


「ちょっと!! 何してますの!!」


リンネカルロの怒りの声が聞こえる。しかし、マウユはお構いなしにギュッと力をこめて離れようとしなかった。どうやらまだ裸のようなのでこのまま振り返るわけにもいかない。とりあえず、それを言い聞かせようとした。


「ま、マウユ、とにかく服を着るんだ。このままだとそっちみれないだろ」

「どうして? 別に見ていいんだよ」

「いや、そういうわけにもいかないんだって……」


それから何度言っても離れようとしなかったマウユは、リンネカルロと渚に強制的に引き離された。きゃーきゃーと抵抗していたけど、渚は屈強な男も取り押さえられる強者なので抵抗しても無駄だろう。しばらくして、なんとか服を着させたようで、ようやく振り向く許可が出た。


マウユは精神世界で会った時よりさらに大人に見える。薄いコバルトブルーの長い髪、凛々しい顔だちで、俺をお兄ちゃんと呼ぶイメージとはとても合わない。渚よりも背も高く、出ているとこが出ているからか着ている服はかなり窮屈そうだ。彼女は、ちょっとふてくされていたけど、俺の顔を見ると笑顔になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る