第413話 四つの軍/結衣

全国家に対する宣戦布告は、予想通り大陸全体を大混乱に陥れた。エリシアに抵抗する力の無い小国は媚び怯え、列強諸国は非難の声明で応えた。


混乱しているのはエリシア帝国の内部も同じであった。どうしてこれほど急に、メリットのない宣戦布告を出したのか理解できる者はいなかった。しかし、皇帝の言葉は絶対であり、声を出して非難する者もまたいなかった。


全ての国家と戦う為の準備は急速に進められる。帝国軍は大きく四つの軍にわけられた。帝国領土東から侵攻する南東方面軍は十軍神のユウトの軍団と、エメシス軍団で編成されている。戦力は二つの軍団を合わせると、魔導機三万機の大戦力で、列強の多い南東侵攻でも十分と思われる。


西側から侵攻する南西方面軍には、新参のクルスと、クラスメイトでなにかと私に対抗心を燃やしているレイナの軍団で編成された。西側には小国が多く、侵攻は容易であると判断されているからか、十軍神の中でも戦力の少ない二つの軍団で構成される。総兵力は魔導機一万五千と南東方面軍の半分の規模であるが、難敵となる国もいないようなので十分だそうだ。


南下してラーシア王国と戦う中央方面軍は、現在はアージェイン軍団が中心となっていた。私が援軍に加わることで方面軍の指揮権は私に移ることになっている。戦力は、私のローズニードル隊と一緒に援軍に向かう十軍神の一人、ロゼッタの指揮する軍団を合わせると、魔導機五万のエリシア帝国軍最大戦力になる見込みとなっていた。


さらに、ラフシャル直属軍となるアスタロトが指揮する第四軍には、ペルネシッサとスカルフィが副官として編成された。数こそ一万と最小規模だが、驚異の戦闘力を持つペルネシッサと、それをも超える力を持つアスタロトがいるだけで、実質、帝国最強だと思われる。第四軍は状況を見て、どの方面にも援軍として向かえるように、当面は帝都で待機となる。



中央方面軍の指揮権が私に移ることを冷静に考える。魔導機戦力だけでも五万機、ライドキャリアも千隻も指揮下に入り、兵員数は三十万人にもなる。指揮権を得るということは、それだけの命を預かると言う事だ。考えれば考えるほど不安になる……。


「これほどの軍の指揮なんて私にはできないわよ」


私の弱音に、メアリーは何の不安もない表情でこう答える。

「同じ十軍神でも、今の指揮官のアージェインより、貴方の方が格上なのだから仕方ないわよ。それに自分で思っている以上に、結衣にはその資質があると思うわよ」


「格上って言ってもルーディア値が高いだけだし、指揮経験はアージェインの方が遥かに上じゃない。資質なんてよくわからないし……」

「まあ、アージェインだけじゃなく、あの三傑のロゼッタも副官になるんだから、頼りにしたらどう。大将なんてどんと構えておけばどうにかなるって」

「それもちょっとした悩みの種なんだって……あのロゼッタが私の下につくのよ? お世話になった上司に、どんな顔して指示だせばいいのかわからないわよ」


同じ性別ということもあり、まだこの世界に慣れない頃、ロゼッタには何かとお世話になったことを思い出す。特に嫉妬深い女性ということもないと思うけど、元部下の同性が上司となった時、どんな気持ちになるか想像できない。

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