第412話 侵攻準備/結衣

エリシア十軍神の揃い踏みの発表は、国内では熱狂的な歓迎ムードで迎え入れられた。今の皇帝、実際にはラフシャルの方針に従い、エリシア帝国の国内は軍事化のムードが色濃く、強い国家として他国を圧するのに酔いしれていた。


実際、ラーシア王国には煮え湯を飲まされることはあっても、その他の戦場では負け知らずで、勝利の報は帝国国民の話題の種となっていた。ラーシア王国との戦いは、情報規制によりほとんどが報じられることはなかったので、国民は自国の軍が無敗の大勝利を重ねていることを疑うこともない。


「結衣、それで私たちへの新しい任務はなんなの?」

副官であるメアリーが、ローズニードル隊の新しい任務を尋ねる。明日にはエリシア帝国から大陸の全国家へ宣戦布告がされる。それに合わせて、私たちにも任務が言い渡されていた。


「ラーシア王国との戦いへの援軍に向かうことになりました」

「期待されてるのか、軽視されてるのか、それはまた厄介な激戦区に送り込まれるわね」

「他人事のように言うわね。これがローズニードルの任務って忘れてない?」

「戦力として期待されてるのは結衣だけよ。私たちはおまけみたいなものでしょう。他人事くらいな気楽な気持ちが丁度いいでしょう」

「私はおまけなんて思ってないわよ。本当に頼りにしてるんだから」

「はいはい、それじゃ、早速、任務の準備を始めましょうか。ラーシアは強敵だそうから、ちゃんと準備しないとね」


頼りにしてるのは本当なのだが、話半分に聞き流される。


「あっ、そうだ。ラフシャルから褒美くれるって言われたから、ローズニードルの軍備補強をお願いしておいた」

「貴重な褒美を、仲間の為に使うなんて結衣らしいわね。私なら個人的な欲望を満たすけどな」

「特に欲しい物もなかったからいいのよ」

「それで軍備補強ってなんなの?」

「詳しくはわからないけど、明日には届くらしいわよ」

「そんなすぐにくれるような補強なら大したことないわね。良くて人員の追加と魔導機の装備増強くらいかしら」

私もその程度のものだろうと思っている。しかし、人手は多くて困ることはない。ありがたく頂いておこう。



結果、私とメアリーの予想は外れた。ローズニードルへの褒美は、新規のニトロライダーと、新造された戦艦型ライドキャリア、それと50機の最新鋭魔導機、さらに私のエルヴァラの強化であった。


「随分と太っ腹ね。なにか裏でもあるんじゃないの?」

メアリーは完全に意図を疑っている。それくらいに不自然な褒美であった。私もラフシャルの真意が理解できない。私が彼を嫌っているのは、本人も理解しているだろう。この胸にある宝石がなければ、すぐにでも裏切るであろう人間に、これだけの力を与えてどうるすつもりなのかしら……。


新規の戦力の加入により、部隊内の編成を見直した。最新鋭魔導機の力を発揮させる為に、新旧関係なくルーディア値の高い者に最新鋭魔導機に搭乗させる。新造された戦艦型ライドキャリアを新たな旗艦として、艦隊を編成した。さらに武装の見直しをおこない、隊全体の攻撃力を大幅に向上させる。


特に強さを求めているわけではないけど、強くあればあるほど、仲間の生存率は上がる。今はそれだけを考えていた。

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