第414話 死する決断

デミウルゴスがいなくなったことで、帰りの地下施設の移動はスムーズであった。あれほど苦労したのが嘘のように順調に地上へと帰って来た。


久しぶりに自然の明るさを肌に感じ、特に地下施設が不快だったわけでもないけど、やはり太陽の下が良いと感じる。


「勇太、ちょっといいか」

ブリッジの横のバルコニーで、外の景色を見ていた俺にジャンがそう声をかけてきた。真面目な表情なので食事のメニューとかの相談ではなさそうだ。


「何かあったのか?」

「今回の遠征もそろそろ終わりだ。ということはエミッツとミルティーとはもう少しでお別れになる」

「あっ、確かにそうだな。お別れ会でもするか?」

「馬鹿、そんなことよりもっと大事なことがあるだろが」

「大事な事……なんだよそれ?」

「あのな、あの二人には人の蘇生なってとんでもないもの見られてるんだぞ。このまま帰してみろ、国に報告されてまた余計な問題が起こるだろよ」

「なんだよ、そんなこと心配してたのか。大丈夫だって、二人は良い奴だし、口止めしてれば問題ないと思うぞ」

「あのな、確かに二人はいい奴だけどよ、エミッツは生粋の生真面目軍人だぞ。それが国への報告義務を怠るわけないだろうが」


確かに生真面目な軍人気質なのは認めるが……それでも俺はエミッツを疑う気にはなれなかった。


「大丈夫、俺はそれでもエミッツを信じるぞ」


そう言い切ったところで、ジャンではなく意外な人物から声がきた。


「すみません……お二人に相談があってきたのですが……よろしいですか?」

見るとエミッツとミルティーがバルコニーの入り口に立っていた。タイミング的に今の会話は聞かれていたと思う。

「エミッツ……今の会話聞こえちゃった?」

「はい。盗み聞きのようで申し訳ありませんが聞こえてしまいました」

「それじゃ、話は早い。施設で起こったことを国に報告なんてしないよね?」


「いえ、残念ですがジャン殿の意見が正しいです。私は国に帰ると、自分の見たこと経験したことを報告するでしょう。それが軍人としての務めだと思っています」


彼女の返しにびっくりした。こんな場合、嘘でも絶対に言わないとか言いそうだけど、はっきりと報告すると言い切った。


「いや、そこは嘘でも言わないって言ってくれないと困る」

「恩人である勇太たちに嘘はつけません」


いや、全部話しますよと言われたら、このまま国に帰すってわけにはいかなくなる。どうして嘘ついてくれないんだよ……そんなふうに困っていると、ジャンが口を開いた。ほら、俺の言った通りだろっ、と勝ち誇るかと思ったけど、その内容は全然違った。


「エミッツ、先に俺たちに相談ってのを話した方がいいんじゃねえか? じゃないと困りすぎた勇太の頭が爆発する」

「なっ! いや、たしかに困りすぎてるけど、爆発なんてしない!」


エミッツはそのやり取りを聞いて少し微笑む。それを見て少し安心した。どうやら深刻な相談ではないようだ。


「勇太たちを裏切るようなことをしたくありません。しかし、国への報告義務は怠ることもできません。そこでミルティーと相談して考えたのですが、自分たちは死ぬことにしました」


「えっ! 死ぬって……ちょっと待て! 困ったからって死ぬことはないぞ!」

「あっ、いえ、実際に死ぬわけではなく、死んだことにするのです。幸い、スイデル伯爵の襲撃で部隊は全滅、それからまだ報告もしていませんので、国も我々を戦死したものだと判断しているでしょう」

「なるほど……でもいいのか、一生国に帰れないかもしれないんだぞ? 友達や家族にも会えないし……」

「リュベル王国に良い思い出はあまりありませんので……」


その言葉が全てを語っているように思えた。確かに聞いているかぎりは、あまりいい思い出ができる人生ではなかったようだけど。


「ミルティーも問題ないのか?」

エミッツと違って、ミルティーとはあまり話をしていないので気持ちを再確認する。ミルティーは迷いなくこう答える。


「もちろん、友人や家族に会えなくなるのは少し辛いですけど、勇太さんたちがいなければ死んでいた命です。後悔はありません」


「わかった。そこまで言ってくれるならこっちから止める理由もない。あっ、だけど相談って死んだことにするって話か?」

「いえ、自分とミルティーはこれで孤立無援の無職になりますので、無双鉄騎団で働かせて貰えないかと……」


二人が優秀なのは良く知っている。無双鉄騎団で働いてくれるならありがたい話だ。ジャンはどう思っているのか確認しようと彼の方を見る。俺と目が合うと微笑んで頷いた。その微笑みで全て理解する。どうやら最初からジャンは二人を無双鉄騎団に入れるつもりだったようだ。なんだよ、それならそうと早く言えばいいのに……。


「エミッツ、ミルティー、もちろん返事はOKだ。歓迎するよ」


その言葉を聞いて、二人は安堵したようで笑顔になった。

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