第409話 解放

剣を握り締め、近づく兵士たちと対峙する。大きく息を吸い込み、戦う準備を整える。戦いに巻き込まれないようにマウユをさがらせると、大きく一歩踏み込んで、兵士たちとの間合いを一気に詰める。


兵士は十人くらいはいるが、やはり危険な気配は微塵も感じない。余裕を持って兵士たちに囲まれる。一斉に剣を振って俺を攻撃してくる。どの攻撃もスローで避けるのは容易であった。


避ける度に剣を振り兵士を斬り伏せる。十人の兵士に対して、十回避けて十回剣を振る。これだけの動作で兵士を制圧した。


守る兵士がいなくなっても、デミウルゴスの表情は変わらなかった。いまだ、ニタニタといやらしい笑みを浮かべてこちらを見ていた。


なにか奥の手でもあるのか? 鈍い俺でもわかるくらいに、あからさまに余裕がありすぎる。


「なかなかの剣術で見応えがあったよ。しかし、しょせんは私の頭脳の相手ではない」


そう言うと手元にあるスイッチを見せた。何か嫌な予感がしたので、俺は急いでデミウルゴスに近づこうとする。


「遅い! 死の苦しみを味わうがいい!」

そう言うとスイッチを大袈裟なアクションで押した。すると部屋の四隅にあった柱にのった丸い玉から稲妻のような光が一斉に俺に襲い掛かってくる。


「ぐわっ!!」


びりびりと体がしびれ、激痛が走る。しまった。ただのマウユの精神と記憶から作られた偽物のデミウルゴスだと油断した。こんな仕掛けを持ってるなんて……。


「嫌!! おにいちゃん!!」


苦しむ俺を見て、マウユが叫ぶ。


「マウユ……くっ……その剣でデミウルゴスを……」


無茶かもしれないけど、マウユにそう指示する。マウユはすぐに意図を理解して頷くが、恐怖で足がすくんでいるのか動くことはできない。


「うっ!! ぐはっ!!」


痛みが強くなって思わず呻く。それを見てマウユの表情が変わった。


「このままだとお兄ちゃんが、お父さんみたいになっちゃう……私……私……」


どうやらマウユはこの仕掛けで父親を亡くしたみたいだ。確かに彼女の記憶にないとこんなものが出てくるのはありえないからな。


「マウユ!! デミウルゴスを……悪い記憶を消し飛ばせ!!」


苦しい中、精一杯の声でマウユに声をかけて後押しする。マウユは落ちている剣を拾ってデミウルゴスを睨みつける。


「フフフッ── 貴様のような幼い少女が、そんな物騒なもので遊んでは危ないぞ。ほら、こっちによこせ」


「お父さんとお母さんにあんな酷いことして……お兄ちゃんまで……私……あなたが大っ嫌い!!!」


マウユはそう叫びながら剣を振った。無我夢中の攻撃だったけど、剣は見事にデミウルゴスに命中する。


「ぐわわっ!!! ぐっ……馬鹿な……道具の分際で、この天才の私を……」


「消えてなくなっちゃえ!!」


マウユはもう一度、剣を振る。その一撃はデミウルゴスを一刀両断した。


両断した剣筋から白い光のようなものが広がり、デミウルゴスが飲み込まれていく。そして最後には泡のような粒の粒子になり消滅した。


デミウルゴスが消えると、俺を襲っていた稲妻も消え去る。


「お兄ちゃん!」


マウユは息が荒く疲れた様子であったが、その表情は晴れ晴れとして、どこかスッキリとした感じに見えた。

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