第410話 治療完了

「お兄ちゃん!」


マウユは元気な声でそう呼ぶと抱きついてきた。本人は5歳の少女だと思っているからか、遠慮のないタックルでかなりの衝撃を受ける。


「頑張ったな、マウユ」

俺がそう言うと、嬉しそうに笑顔になる。あれで完全にトラウマが無くなったわけではないだろうけど、だいぶ吹っ切れた感じにはなったようだ。


「対象の精神安定を確認。勇太、よくやりました。治療は無事終了です。これより接続の遮断を開始します」


フェリがそう告げると視界がどんどん暗くなっていく。どうやらマウユとも一時お別れのようだ。


「お兄ちゃんが薄くなってく……ヤダ……いかないで! 消えちゃヤダ!」

状況のわからないマウユは必死でそう訴えかけてくる。


「大丈夫、少しの間だけ離れるだけだよ」

「ほんとに? 絶対、いなくなったりしない!?」

「俺はいなくなったりしない」


そう言い切ると、マウユは安心したのか泣きだしそうな表情が少し穏やかになった。そんなマウユの安心した顔を最後に、完全に視界がフェードアウトする。そして次に気が付くと、あの医療施設の部屋だった。


「フェリ、勇太がきがついたみたいです」


清音のその声で、覚醒したことを自覚する。上半身を起こして周りを見ると渚が心配そうに俺を見ていた。


「どうした渚、そんな泣きそうな顔して」

「何言ってるの! 苦しそうに呻いてたから、ちょっとだけ心配してたんでしょ!」


あっ、デミウルゴスに電撃食らってた時かな? まあ、別に今はなんともないので、心配する必要はないけどな。渚にそう伝えると、急に態度を変え、別にそんなには心配していないわよ、と素っ気なくなった。


「それより、マウユは……いや、あの子は目覚めたのか?」

治療の完了したマウユが気になり状況を聞く。


「まだ、眠っています。フェリの話では、安全を考慮してゆっくり起こすようですけど」

渚の代わりに清音がそう説明してくれる。確かに凄く長い時間、眠った状態だったようだから、急に起こすと危なそうな感じはする。



とにもかくにもオヤジも生き返り、マウユの治療も終わった。これで全ての予定を完了したので後は帰るだけとなった。まだ眠りについているオヤジとマウユを連れてミライに戻ると、帰る準備を始めた。


「ここで見張りをしていただけで、暇で死にそうでしたわ。やっぱり、私も一緒に行けばよかったですわね」

一人、魔導機で待機していたリンネカルロが、よほど暇で退屈していたのか後悔したようにそう言ってくる。


「いや『結果』何もなかっただけで見張りは必要だったと思うぞ。もし、魔導機じゃないと対処できない何かが出てきてたらどうしようもなかっただろ?」

俺がそう言うと、リンネカルロは、わかってませんわね、とばかりにこう返してくる。


「違いますわよ。『結果』見張りなんて必要なかったってことですわ。私が無駄に疲れただけじゃないですの」

完全な屁理屈だが、確かにそう言われればそうだな……。


「ハハハッ── 確かにそういう考えもできるな。しかし、見張りなんてもんは大抵は無駄に終わるもんだ。無駄に終わって良かったくらいに考えるのが正解だろうよ」

俺とリンネカルロのやり取りを聞いていたジャンが笑いながらそうツッコんでくる。おそらく本当はリンネカルロもそんなことは分かっていると思う。ちょっと膨れっ面になっただけで反論はしなかった。




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