第408話 立ち向かう

「すっごい! おにいちゃんって強い! やっぱり私のおにいちゃんは最高だね♪」


マウユは恐怖の対象である兵士が消えたことで元気を取り戻し、きゃっきゃっと喜んでいる。これでトラウマが無くなっていれば楽なのだが、おそらく一時的な気持ちの高ぶりにすぎないだろう。


「よし、マウユ。このままデミウルゴスを倒しに行こう」

「デミウルゴスって誰?」

「さっきいた白衣を着た医者みたいな奴だ」

「えっ……あのおじさん怖い……嫌……」

「わかってる。だけど、このままだとマウユは救われないんだ。さっきも言ったけど、絶対に俺が守ってやるから」


俺が一人でデミウルゴスを倒しても意味がない。ちょっと無茶でもマウユを連れて行かないとダメだ。


「……おにいちゃんは私が頑張ったら嬉しい?」

「ああ、もちろん嬉しいよ」

「……うん、わかった。私、がんばる!」


これだけ会話すると、見た目を忘れて本当に五歳の少女のように感じる。


デミウルゴスのもとへと向かおうとしたのだけど、ここまでどうやってきたのかも覚えてないので困った。だけどよく考えたら、そもそも、この世界はマウユの精神と記憶で作られているもので現実ではない。地図があるわけでもないだろし、構造も凄く曖昧で、ここをこう進めば到着するなんてことはないと思われた。


どうしたもんかと悩んだけど、ちょっとしたアイデアが浮かんだ。試してみる価値はあるかもしれない。


「マウユ、そこの扉を開けて部屋に入るぞ。この部屋にはデミウルゴスがいるんだ。奴は俺たちが入ってくるのを知っていて、今か今かと待ち構えている。罠に飛び込むような感じだけど、裏の裏をかいて、驚かしてやろう」

「うん……わかった」


こうやって、この部屋にデミウルゴスがいるとマウユに認識させる。待ち構えているという不利な設定にすることで、より、リアルにイメージしやすくしてみたけど……。


ゆっくりと扉を開く。部屋には兵士を従えたデミウルゴスが、にやけたつらで立っていた。半信半疑ではあったけどうまくいったようだ。


デミウルゴスの顔をみたマウユが俺の後ろに隠れる。俺は奴らから彼女を守るように一歩前にでた。


「デミウルゴス! マウユは今日で全ての苦しみから解放される! お前はここで終わるんだ!」


これは目の前にいるデミウルゴスに向けた宣言ではない。じつはマウユに伝えたい言葉で、彼女の解放のイメージを助けるものであった。フェリから彼女の認知が大事だというヒントから思いついたのだけど、効果はどうだろうか。この言葉が伝わったかどうかはわからないけど、後ろに隠れるマウユは、ギュッと俺の体を掴む手に力をいれて反応している。


「痛み、苦しみ、恐怖……それは素晴らしい力! それが終わることはない! 無限のエネルギーなのだ! その女は俺に永遠の力を与えるのだ!!」


「貴様の都合で人を弄ぶな!!」


これはたんなる買い言葉で、素直に感じた怒りだった。デミウルゴスは俺の怒りなど気にする様子もなくこう言う。


「まあいい。どのみちお前は邪魔な存在だ。消えてなくなれ」


その言葉と同時に、周りの兵士が動き出した。ゆっくりとこちらに近づいてくる。

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