第406話 トラウマ
しばらく、マウユは俺の胸で泣いていた。俺にはそのまま泣かせてあげることしかできなかった。
ずっと泣いていたマウユが顔をあげて俺を見つめる。その瞳から溢れる涙はまだ止まってはいない。泣き顔のままで彼女はこう言った。
「怖い……あの人……お医者さんみたいな恰好のおじさん……私に酷いことするの……痛いこといっぱいされたの……お母さんだって、あのおじさんに……ヤダ!!
どうしてそんな酷いことするの!! やめて! 痛い! 苦しいよ!! 勇太おにいちゃん助けて!!」
そうだった……俺は今、マウユの精神と繋がっているんだった。そんな状況をようやく思い出す。あのイプシロンコアから解放されても、彼女は今もなお、デミウルゴスに苦しめられているんだな……。
ようやく自分の今の状況を理解した時、頭の中にフェリの声が響いた。
「勇太、そちらで何かしましたか? 治療プログラムが何かにひかかって停止してしまいました」
あっ、フェリと会話ができるんだ。妙に感心しながら、自然と頭の中でイメージを送るような感じで返事をする。
「いや、彼女と話したけど、まずかった?」
「…………何もしないでくださいと、言ったじゃないですか……もしかして彼女に強い印象を残すような接触をしませんでしたか?」
「まあ、酷いことされていたのを助けたけど……」
「……そうですね、可能性としては十分考えられると予測はしてましたけど……仕方ありません。こうなってしまったらプランBに移行しましょう」
フェリの呆れたようなその言葉に不安になって聞く。
「やっぱりまずかったのか?」
「まずいと言うより、本来ならしなくていい作業を勇太がしなくてはいけなくなっただけです」
印象とはおかしいもので、そういう言い回しをされると、俺が何かするだけで修正できるのなら問題ないかと思ってしまう。
「それで何をすればいいんだ?」
「はい、その精神世界にて、彼女のトラウマになっている存在を取り除いてください。もう、彼女に強い印象を与えてしまった勇太にしかできないことです」
簡単に言うけど、なかなか難しそうなミッションだな……マウユのトラウマになっている元凶ってなんだろうかと考える。やっぱりアイツしかいないか……しかし、取り除くってどうすりゃいいんだ? ここは現実ではない、マウユの精神世界だ。デミウルゴスをただたんに斬り伏せただけでは問題の解決にはならないような気がする。
「勇太、何やら困っているようですのでヒントです。そこは認知の世界です。何をするのではなく、彼女がどう認識するかが重要です。それを踏まえて行動してください」
どうも俺の思考は全て筒抜けのようで、フェリがそうアドバイスしてくれた。
さて、それではどうすればいいかな。デミウルゴスがトラウマの元凶なのは間違いない。しかし、俺がデミウルゴスを斬っても多分意味がないってことだろう。マウユがどう認識するかが大事か……やっぱり、ここはマウユにちょっと頑張ってもらう必要があるかもしれない。
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