第405話 気が付けば

「絶対に逃がすな!! 男は殺してかまわんが女は生きてつれてこい!」


デミウルゴスが逃げる俺たちに向かってそう叫ぶ。その言葉にイラっとして今からでも戻って斬り捨てようかとも考えたが、恐怖の表情で必死に走る彼女を見て思いとどまる。


進行方向に見張りで立っている兵士が二人いる。後ろからは数えきれないくらいの兵士が追ってきているので、ここは強行突破するしかない。


兵士たちは俺たちに気が付いて剣を抜く。しかし、こちらの方が早かった。全速力で接近すると、反撃されるまえに二人とも素早く倒した。


オヤジや清音を相手に立ち合いをしているだけに、並みの相手、二人くらいなら楽に勝てる。実際、兵士10人と戦うよりオヤジ一人と戦う方が厳しいと思うし嫌だ。


ふと見ると、兵士を圧倒した俺を彼女がぼーっと見ている。見た目より強かったとか思ってるのか驚いた様子である。しかし、逃げている途中の俺たちにぼーっとしている暇などない。彼女の手を引いて、さらに奥へと向かった。



それから俺たちは、ダクトに入ったり、地下道を通ったりと、必死に逃げ回った。無我夢中だったので、どこをどう通ったかもよくわからないけど、気が付けばなんとか兵士をまいていた。


「なんとかまいたみたいだな。だけどまたいつ見つかるかわからないから、今のうちに少し休もうか」

そう提案すると、こくりと小さく頷く。


「俺は勇太、君の名前は?」

話しかけるにも名前も知らないことに気が付いてそう聞いた。彼女は少し恥ずかしがる仕草をしてモジモジともったいぶった後に、小さな声でこう答えた。


「──…… マウユ……です」

「そうか、マウユ。かなり酷いめにあっていたみたいだけど、体は大丈夫か?」

「うん……さっきまで痛かったけど、今は大丈夫……」

「なら良かった」


「え~と……勇太おにいちゃんはどこからきたの?」

「えっ、おにいちゃんって……マウユと俺ってそんなに歳は変わらないよね?」


マウユの実年齢は分からないけど、見た目でだけでいうと、下手をすると俺より少し年上にも見える。言葉の意図がわからずそう聞き返した。しかし、彼女はちょっと驚くような言葉を続ける。

「私、5歳だよ」

「5歳!! いや、いくらなんでも5歳には見えないんだけど……」

「そんなこと言われても……私、5歳なんだから……お母さんもこの間の誕生日にそう言ったよ。マウユはもう5歳なんだから一人でなんでもできないとねって……あれ? お母さんはどこ……どこにいるの!? やだ! ここはどこ? 私、お家に帰りたい!」


今の状況に不安を感じたのか、女の子の精神が不安定になったようだ。表情が硬くなり、落ち着きなくキョロキョロし始めた。


「わかった。俺が家まで送っていってやるから落ち着いて……」

「お家……ダメ……お家は危ないって……ここにいたら危ないってお母さんが……たくさん悪い大人の人がくるんだって……あれ……違う……きたんだ……私、逃げるのが遅れて……大人の人に捕まって……嫌!! お母さんを放して!!」


「どうした、マウユ!?」

支離滅裂に話し始める彼女が心配になり声をかける。彼女は1点を見つめて、何かを見ているようだ。


「いやああ!!!! おかあさん!!!!」


マウユがそう叫んだ瞬間、フラッシュバックのような映像が一瞬、俺にも見えた。それは兵士が女の人の腹を剣で刺している姿だった。


彼女の瞳からは涙が溢れ出していた。剣で刺されていたのは、どうやらマウユのお母さんのようだ。母親のあんな姿をみたらショックを受けるだろう。


今はこんなことしかしてやれないけど……俺は泣きじゃくる彼女をそっと抱きしめた。

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