第387話 降臨

「勝手に入ったことは謝るけど、こちらもまさか誰かいるとは思っていなかったし……」

「そうですわ、文句があるなら言ってくれればよかったじゃありませんの。変な蜘蛛や魔導機をけしかける必要なんてございませんわ!」


フェリが嫌悪感たっぷりで反応する相手ではあるが、勝手に侵入した事実もあるので、とりあえず外部出力音でそう弁解する。


「言い訳などよい。それにもうどうでもいいことだ。もうこの施設は捨てることにした」


「捨てるってどういうことだ?」

「言葉なのままだ。爆破して全てを消去する」


デミウルゴスがとんでもないことを言い出した。そんなことされたら、オヤジの蘇生も、女の子の治療もできない。


「ちょっと待ってくれ! それは困る!」

「ふっ、もう決めたことだ。そちらの都合など知りはしない。しかし、爆破まではまだ少し時間がある。この施設への侵入の駄賃がたんなる爆死では安すぎよう。最後にとっておきの絶望を味わって死んでもらうとしよう」


よかった、まだ時間があるようだ。なんとか爆破を阻止しないと。しかし、とっておきの絶望という言葉が気になる。また何かでてくるのか?


「ジャン! どうする!? どうやらこの施設を爆破するみたいだぞ!」

「わかってる。ちょっと待て。フェリ、爆発物がどこにあるかわかるか?」

通信越しにフェリにそう聞いてくる。


「正確な位置はわかりませんが、この広大な施設を破壊するほどの爆発物が仕掛けられているとは思えません。おそらく、施設の支柱となっているものを、ピンポイントで破壊しようとしてるのでしょう。地図を分析した結果、おそらく、あのメディカル施設の下部にあるポイントに爆発物はあると思われます」


「よし、わかった。急いで解除に向かおう!」


フェリの話を聞いて全員がメディカル施設へと急ごうとした瞬間、地響きのような音が響いた。


「勇太! 巨大なエネルギーを感じます! さきほどのデミウルゴスのセリフはハッタリではないよです」


「巨大ってどれくらいなんだ!」

「巨獣ランクSSS 史上最高クラスの巨獣のそれに該当するほどです。気を付けて下さい。SSSランクの巨獣は、クラス3の魔導機の戦闘力を遥かに上回ります!」


クラス3より強い相手だって! そりゃ大変だ……。


その正体不明の巨大なエネルギーの相手は、火山の噴火のように地面を吹き飛ばして現れた。


「やはり巨獣のようです。それも神話級のSSSランク……まさかそんなものがこんなところにいるなんて……」


SSSクラスの巨獣はライドホバーのミライより大きな体で、昔、何かの機会に見たCG映画に出ていたドラゴンのような風貌をしていた。威圧的で、攻撃的な爬虫類のような見た目で強そうだ。


「やだ……あれを見て! 巨獣の頭部にあるの」


渚が悲痛な叫びでそう言う。確かに巨獣の額に何か異質な物が埋められているようだった。

「ちょっと待てよ……あれってあの魔導機と同じ……」

「イプシロンコアです! しかもあのコアには……」

それは目を覆いたくなるような状況だった。巨獣の額にあるイプシロンコアの中には、十人以上の人間が押し込められていた。


「まさかイプシロンコアを使って、巨獣を操ろうとしているのですか! 無理です! SSSクラスの巨獣を、自由に操ることなどきるはずはありません!」


フェリが無理だと言うなら無理なような気がする。しかもあの人数をコアに閉じ込めて、なんて奴だよ。


「クラス3でも歯が立たない相手だ。巨獣の相手は俺がする。みんなは爆破の阻止に向かってくれ!」


巨獣に危険な予感がした。全員で戦えば、誰か死ぬような予感だ。だから心細くても一人で戦う選択をする。フェリもそれに同意してくれた。彼女も、あの怪物と戦えるのは、この俺と、クラス2専用機であるアルレオ弐だけだと言うのを理解している様だった。

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