第382話 生きてこそ
「ジャン! 医療ポッドの準備をしていてくれ!」
ミライに戻る途中、先に受け入れの準備をした方が良いとのフェリの助言に従い、ジャンにそうお願いする。
「どうした!? 誰か怪我したのか!」
「事情は後で説明する!」
「わかった。準備しておく」
ミライの格納庫に入ると、フェリの疑似体が動き出す。フェリの疑似体の遠隔操作には有効距離がある。だいたい50mくらいで、本体のあるアルレオ弐からそれくらい離れると操作不能になるってしまう。だから俺が出撃すると必然的に疑似体はお休みモードになるのだが、今回、フェリは有効射程に入った瞬間、疑似体を起動させて、医療ポッドの準備をしていたジャンの下へと駆け寄った。
「勇太! 彼女を傷つけないようにカプセルを破壊して」
フェリは難しい要望を簡単に言う。俺がどうやって壊すか躊躇していると、一緒に戻って来た清音がこう声をかけてくる。
「私がやりましょう。勇太は父上と同じで大雑把ですから、繊細な作業は苦手でしょう」
付き合いはそれほど長くないのによくわかっている。確かにこういう作業は清音の方が適任だろう。
清音は菊一文字でカプセルを受け取ると、ジッと見つめて構造を見極める。そしてコードや少しでも人体に繋がっている部分を壊さないように、少しずつ力を入れてカプセルを破壊した。
見た目ではうまくいったように見える。清音は壊したカプセルを格納庫の床に置く。フェリの疑似体が壊れたカプセルに入り、装置から彼女を取り外す。
「ジャン! 運ぶから手伝ってください」
「お、おう!」
詳細を知らないジャンは戸惑いながらも、フェリのその言葉に従い医療ポッドへと彼女を運ぶのを手伝う。
そこへ出撃してミライの護衛をしていた渚とリンネカルロも、ただ事ではない状況に気が付いて戻って来た。
「なにがあったの?」
「後で説明する。今は彼女を助けることが先決だ」
空気の読める渚はそれ以上聞かなかった。リンネカルロもそのやり取りを見ていたようで何も言わない。
ジャンとフェリが彼女を医療ポッドに丁重に入れる。ポッドを閉じると、フェリが医療ポッドの機器を見て状況を確認した。どうも数値が思わしくないのか首を横に振る。
「どうかな、彼女は助かりそうか?」
「生命の維持には間に合ったようです。しかし、それと彼女を助けることとは別問題になるでしょう」
「どういうことだ?」
「普通では考えられないほどのダメージを心と体に受けています。特にアストラルダメージが深刻で、正常な精神での復帰は難しいかもしれません」
「やっと……やっと、辛い状況から解放されたっていうのにそんなことってあるのかよ!」
「全力は尽くします。幸いにも我々が目指しているのは高度なメディカル設備のある場所です。もしかしたら救ってあげる方法が見つかるかもしれません」
それは俺に希望を持たせる為の言葉かもしれない。疑似体では表情まで見ることはできないけど、その口調からは悲しい現実を告げるようなニュアンスを感じた。
だとしても、希望が薄くても生きていれば可能性はある。俺はカプセルに横たわる彼女を見た。まだあどけない感じから俺とそれほど年齢は違わないだろう。どうして、この子がそんな酷い目にあっていたのか知らないけど、これか先、辛い目にあった分、幸せになる権利はあると思う。
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