第380話 耐える

やはり、ど真ん中にむき出しているコアを傷つけないように攻撃するのは難しい。四本腕の足元に魔光弾を撃ち込んだり、足や腕を狙って剣を振るしかできない。だけど四本腕は容赦なくこちらを攻撃してくる。杖で殴ってきたり、魔導撃を放ってくる。


四本腕だけではなく、廃棄された魔導機も次々起き上がってきて攻撃してくる。数が多く、恐れることなく襲い掛かってくるのでこちらも厄介だ。


「こいつらどうして動いてんだよ!」

人も乗っていないのに動いている魔導機たちに憤りを感じる。どういう仕組みで動いているのか、フェリにもちゃんとした答えは分からないようだ。


「おそらく念動傀儡の技術だと思いますけど、これだけの力を生み出すには相当なエネルギーが必要なはずです。しかし、あの魔導機以外の干渉が確認できないのが妙ですね」


「痛い……苦しい……助けて……」


またあの声が聞こえてくる。悲痛な言葉に心が痛む。しかし、この声を聞いてフェリな何かに気が付いたようだ。


「まさか……そんなこと……」

「どうした、何かわかったのか?」

「もし、私の想像が正しいとすれば、あの魔導機を開発した人物はとんでもない外道でしょう。いえ、外道と言う表現でも生易しいかもしれません」

「どういうことだ?」

「勇太。人の生み出す力で一番強い力は何かわかりますか」

「えっ? え~と、足の力は腕の何倍って話を聞いたことあるから足かな」

「物理的な力など、精神力などのアストラルパワーに比べたら微々たるものなのです。人の生み出す力で一番強いのは感情です。その中でも負の感情、痛み、苦しみ、怒りなどは、安易に膨大な力を生成するのです」


「ちょっと待て! ということはどういうことだ!」

それを聞いて嫌な予感がした。まさか、そんなことってあるのか。


「イプシロンコアに組み込んでいるだけではなく、常に痛みや苦しみを与えることによって、驚異的なエネルギーを抽出しているようです。しかも精神崩壊してしまうと、生み出すエネルギーが少なくなってしまうので覚醒処置と、生命維持も同時におこなっていると考えられます」


彼女の境遇を想像して吐きそうになる。彼女はどれくらい長い時間、苦しみと痛みを受けてきたと言うんだ……。


「勇太、一つだけ約束してください。もし、彼女を救う可能性がゼロだと判断した時、ためらわず彼女に永遠の眠りを与えてくれることを……」


俺は返事できなかった。魔導機の一部にされて、妙なエネルギーを得る為だけに痛みや苦しみを受けて……そんな人生、悲しすぎる。だから絶対に助ける。あらためて俺はそう思った。だけど、もし、本当に助けられる可能背がゼロだったら……その時は覚悟しないといけないかもしれない。


清音は廃棄魔動機の山の死角をうまく使って、四本腕の後ろに回り込んだようだ。後は俺が攻撃のチャンスを作るだけである。


こちらに注意が行くように挑発的に接近する。しかし、その瞬間を狙っていたように、十機以上の廃棄魔導機が素早く立ち上がり、アルレオ弐を抑え込むようにタックルしてきた。剣で二機を斬り伏せるが、いきなりの奇襲に全ての対応ができない。わらわらとアルレオ弐に群がってきて動きを封じられた。


四本腕は動けなくなったアルレオ弐にゆっくり近づき杖を向ける。そして魔導撃を放った。至近距離からの強力な一撃、右胸部分に大きな衝撃を受ける。並みの魔導機だったら今ので大穴が開いて大破しただろう。


くそっ、本気モードで暴れれば群がっている廃棄魔導機を含めて一掃できるけど、四本腕との距離が近すぎる。装甲を失い、むき出しのカプセルを見てそれをためらっていた。

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