第375話 謎の声

ミライの速度はみるみる落ちていき、やがて停止した。そして怖いことに、そのタイミングで夕景のような感じだったフロアー全体の光量が落ちて真っ暗になる。


「きゃっ!!」

異様な状況に渚が小さく叫ぶ。エミッツやミルティーも顔色を悪くしているところを見ると、恐怖を我慢しているようだ。そんな女性陣の中、清音だけは冷静のようで、怖がっている渚の肩に手を回して安心させている。


「何が起こってますの? フェリⅡがヴィクトゥルフの出力の低下を警告してますわよ」


魔導機で待機しているリンネカルロからそう通信がくる。どうやら不調は魔導機にも起こっているみたいだ。


「フェリ、どうなってるのかわかるか?」


フェリはなにやら特殊な端末の数値を見ながら考えている。そして結論を出すとこう言った。

「どうやらこのフロアー全体に特殊な磁場が発生しているようですね。それに捕らわれてミライは停止したようです」


「大丈夫なのか!?」

「誰かが意図的におこなっていることだとすると、大変危険な状況です」


「ちっ、仕方ねえ。何が来るか分からねえけど、とりあえず全員、魔導機に搭乗して迎え撃つ準備をするぞ」

俺と清音が頷く中、渚だけは難色を示す。


「魔導機に搭乗って……一人ぼっちになっちゃうよ!」

「あたりまえだ。二人で乗っても仕方ないだろ」


プロレスラーみたいなガタイの屈強な男性にも平気な顔して向かっていけるのに、こういうことにはホント弱いよな。


しかし、その後、渚を馬鹿にしていられない状況が起こる。いつでも出撃できるように魔導機で待機していると、妙な声がしてきた。それは女性の声だと思うのだけど、なんとも寂しそうでせつない感じであった。聞こえたのは俺だけではなく、全員にちゃんと聞こえたようで、少し騒動となった。


「ちょっと!! 誰か喋ったよね!? 今の声誰!?」

渚は仲間の誰かの声だと信じたいのか力強く確認する。


「私じゃないですわよ。清音の声じゃありませんの?」

「私でもありません。いえ、ミライに乗っている誰の声とも一致しないように思います」

確かに声質では清音が一番近かったと思うけど、確かに別人だと思う。それにミライに乗っている誰とも一致しないというのにも同意する。


「それじゃ、誰の声だったのよ!? 確かに聞こえたわよ!」


通信でも渚が怖がって焦っているのがよくわかる。なんとか納得する答えを誰かが言ってくれるのを期待しているようだけど、誰にもその声の正体はわからないようだ。


「声の主が誰かとかは分からないけどよ。少しおかしくねえか?」

ジャンが唐突に疑問を投げかける。

「おかしいって何がだ?」

「さっきの声って、言霊箱から聞こえたわけじゃねえだろ?」

「確かにそうだな。どっちかと言うと、耳元で囁かれたような感じだった」

「だろ? 素の声だったとしたら各魔導機に搭乗している人間も、ミライにいる俺たちも全員聞こえるなんて、どれだけ大声なんだって話にならねえか?」


「確かにジャンの言うように不思議な事だよな。通信でもないかぎり、全員が同じように聞こえるわけがない」


「ちょっとやめてよ! 怖くなってきたじゃない!」


さらに説明がつかなくなり、渚の恐怖値が上昇する。


「そういえばさっきの声って、なんて言ってたか誰かわかったか? 女の声だってことはわかったけど、何言ってたか聞き取れなかったんだよな」

「あっ、確かにそうだな。俺も内容は聞き取れなかった」

「私には、たすけて~とか、呪ってやる~とかに聞こえましたわ」


「もう~適当なこと言わないでよ、リンネカルロ!」


リンネカルロは渚が怖がっているのを理解して意地悪で言ったようだ。そうなると、本当の内容は彼女にも聞こえなかったようだな。はっきりと聞こえた声だったのに、これだけの人数で聞いて、全員聞き取れないってことあるのだろうか……ちょっと俺も怖くなってきたぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る