第374話 墓地


起きると、ジャンが朝食を用意してくれていた。コーンスープに似た、穀物のスープと、野菜や干し肉をパンで挟んだサンドウィッチ、それに芋のフライと、シンプルだが美味しそうで栄養バランスの良さそうなメニューだ。


「うまくいけば今日中に最下層へ到着するかもな」

地図を見ながら炭豆茶を一口飲み、ジャンはそう報告する。


「無理はしないようにしましょう。時間より安全が第一です」


清音は干し肉が嫌いなのか、俺の皿に干し肉だけ器用に移動させながらそう指摘する。


「これをもう少し食べてもよろしくてよ」

リンネカルロはサンドウィッチがかなりお気に召したのかぺろりと平らげ、お代わりを所望する。


「残念だが、パンがもうない。スープはまだたっぷりあるからそれで我慢しろ」


ジャンにそう言われたリンネカルロは食卓を見渡す。渚がサンドウィッチを残しているのを見つけるとこう言う。

「渚、食べないなら私が貰って上げてもいいですわよ」

「え!? 食べるわよ。自分のもう食べたんでしょう? 卑しい事言わないでよ」

「卑しいとは失礼ですわ! 食べないなら勿体ないから食べて差し上げると言ってるだけですわ!」


何か言い返そうとする渚の言葉を遮るように、エミッツが話に割って入って来た。

「リンネカルロさん。よかったら一つ食べて貰えますか。自分はもうお腹いっぱいでして」


渚とリンネカルロのバトルが始まりそうな気配を察したのか、エミッツがそう提案する。なんとも大人な人だな。


「そうですの? お腹一杯なら仕方ありませんわね。貰って上げますわ」


リンネカルロは王族のわりには食べ物に執着するよな……昔何かあったのかな。



朝食を終えると、最下層へ向かって出発する。しばらくは特に妨害もなく順調に進んだ。しかし、二つほど階層をくだってやってきた、薄暗い広い荒野のような場所へでると、そこのあまりの異様な光景にみんな言葉を失った。


「これ全部お墓かな……」


渚の何ともいえない恐怖を感じている呟きの言うように、そこに並んでいたのは無数の墓石のような石碑だった。古代文明の人たちの文化はよく知らないけど、日本人の感覚で見ると、それはお墓にしか見えなかった。


「確かにお墓のようですね。これほどの数があると言う事は、この施設の全ての人のお墓が集まっているかもしれませんね」

馬鹿でかい研究施設なので、たくさんの人が生活していたのは想像できるけど、実際にその数を見ると驚く。清音が言うように施設全ての人のお墓がここに集まっていると考えてもおかしくない。


「共同墓地ってとこか。それにしてもこれだけの人がここに住んでいたってが驚きだな」

ジャンの言葉にフェリの解説が入る。


「この施設では全盛期には100万以上の人が生活していました。大陸でも屈指の都市型研究施設で、この研究施設で生まれ、死ぬまでここから外にでずに生涯を終える人もたくさんいたそうです」


都市型研究施設とはまた聞きなれない言葉だ。研究施設というより大きな都市だったんだな。


「こんな場所、早く通り過ぎましょうよ」

渚は気味悪い光景が嫌なのか、そう提案する。確かに昔から怖いのとか苦手だったよな。だけど、怖がるくせに、なぜかよく二人でホラー映画を見ようと誘って来てたのを思い出す。


「早く通り過ぎたいと言っても、これが最高速だからな。まあ、あまり見られない光景だし、観光気分で見てろよ」


ジャンはこういうのが全然平気なのかさらっと言う。しかし、何か異変が起きたのか変な事を言い出した。


「あれ? おかしいな。速度が落ちてきたぞ」


「ちょっと、ジャン! 変なこと言いださないでよ」

「いや、本当に変だぞ。思い通りに動かなくなってきた」


最初は、怖がる渚を驚かせる為の演技かとも思ったが、どうもそうではないらしい。実際にミライの進行速度は目に見えて減速していった。

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