第373話 昔の話
風呂から上がっても、渚とリンネカルロの言い合いは続いていたようだ。清音はすでに仲介に疲れたのかそれを放置していた。
「勇太、待機変わりますからお風呂に行っても良いですよ」
清音が格納庫にきて気を使ってそう言ってくれる。
「いや、俺は後でジャンと一緒に入るからいいよ。せっかくの広い風呂だから、一人で入るのも味気ないしな」
「そうですか。それでは、エミッツに先にいってもらいましょうか」
「そうしてくれ」
俺やジャンより先に風呂に入るのを恐縮していたエミッツは、先に入るのを渋っていたが、女性陣たちの説得によりなんとか入浴してくれた。後で話を聞いたけど、一人で先に入るくらいなら俺とジャンと一緒に入ることを望んだそうだけど、そうなってたら目のやり場に困っただろうな。
遅い時間となり、今日の行程はここまでとなった。ミライを見晴らしの良い比較的安全そうなフロアーの真ん中に停止させて、休むことになった。ジャンも操縦から解放されて一休みする。
「ジャン、風呂に行こうぜ」
「しかたねえ、付き合ってやる」
しかたないと言いながらも、ジャンもどこか嬉しそうだ。広い風呂は久々なので、俺もちょっとワクワクしている。
改装中に見ているけど、お湯が張られ、湯気の立ちこもった浴室はまったく雰囲気が変わっていた。肌に絡みつくような熱気を受けるだけでテンションがあがる。
「なんだよ、勇太。お前、いつも足から先に洗ってるのか?」
「そうだけど、変か?」
「いや、変じゃねえけど、洗っている汚れって下に落ちてくだろ。上から順に洗った方が効率よくねえか?」
確かにそうだ。昔から何も考えないで足から洗ってたけど、考えてみると効率が悪いかもしれない。
「目からうろこだな。今度から頭から洗おう」
「ハハハッ~ ほんとあいつとそっくりな反応するよな、お前は」
何が面白いのかジャンは嬉しそうに笑いながらそう指摘する。
「誰とそっくりなんだよ」
何気なくそう返したが、ジャンから返ってきた言葉には少し驚かされた。
「死んだ弟だよ」
それを聞いてすぐには言葉がでなかった。そう言えば付き合いは長くなってきたのに、ジャンの昔のこととか全然知らないな。この機会に話を聞いてもいいかもしれないと思い、その弟の事を聞いた。
「お前と最初に会った時のこと覚えてるか?」
「確かファルマの宝石を売ろうと、ウロウロしてる時だったよな」
「あの時、お前を見た時、驚いたよ。死んだ弟が生き返ったと思った……それで気になって様子を見てたら、馬鹿な取引しようとしてるしよ。危なかしくって見てられなかったぜ」
確かにあの時ジャンがいなかったら、ファルマの大事な宝石を安値で売り払ってたかもしれない。
「しかし、そんな馬鹿な行動するとことかもあいつと似ていたんだよな……だからお前たちを放っておくことができなかった」
なるほど。あの時、初対面の俺たちに手を貸してくれたのはそう言う事だったんだ。
「話をすればするほど、そっくりでな。気が付いたら離れられなくなっていた。やっぱり、弟に関しては後悔が大きくてな、もう少し俺がアイツの事を気に掛けてれば死なせずにすんだんじゃねえかって今でも思っちまってるからな」
「ジャン……こんなこと聞いていいかどうかわからないけど……弟さんはどうして死んだんだ」
「とんでもない権力に一人で立ち向かおうとした。良い風に言えばそういうことだが、悪く言えばたんに馬鹿だったってことだよ。自分の力を見余り、勝てもしない相手に喧嘩を売って殺されてたんじゃ笑い話にもならねえよ」
ジャンは悲しそうにそう言う。その表情から弟さんに対する思いや後悔がみてとれた。
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