第368話 排水

いくら丈夫なアルレオ弐でも、こう何度も強烈な突撃を受けてると損傷してしまいそうだ。俺はなるべく突撃を避け、剣で応戦しながら時間を稼いだ。


「渚! まだか!」

「思ったより硬いよこの壁! もうちょいかかりそう!」


水の中ではディアテナも思うように動けないようで、壁を崩すのも苦労しているみたいだ。さらに、このやり取りが原因かわからないけど魚巨獣が渚の方に気が付いてしまった。半分ほどの数が渚に向かっていく。


「そっちにいったぞ、渚!」

「えっ! それは困る!」

「困ってもどうしようもない! なんとかしてくれ!」


このままだと壁を崩す前に、魚巨獣の群れにボコボコにされそうだ。仕方ないので上で待機しているジャンたちに助けを求めた。


「ジャン、ちょっと苦戦中だ! 悪いけど誰か水の中へ応援によこしてくれ!」

「勇太と渚のコンビで苦戦するとは何がいるんだ!?」

「巨獣兵器だよ! それも凄い群れだ!」

「なるほどな、わかった。リンネカルロ、聞いてたか? 悪いが勇太たちを手伝いにいってくれ」

「仕方ありませんわね。最初から渚の代わりに私が行けばこんなことにはならなかったと思いますわよ」


リンネカルロと聞いて、ある戦法を思いつく。水は電気をよく通す……。


「リンネカルロ! 外から水たまりに向けて雷撃を打ってくれ!」

「えっ! そんなことしたら、アルレオ弐もディアテナも感電しますわよ!」

「少しくらいなら問題ない! それより敵の動きを止める方が先決だ」

「わかりましたわ。それではキツイのをお見舞いしますから覚悟するですわよ」


「あっ、いや、そんなにキツくなくてもだいじょ……」


まさかなの全力の雷撃をとは思ってなかったので、止めようとしたのだけど遅かった。リンネカルロ渾身の強力な雷撃が水たまりに投下される。


「ぐわっ!」


機体に強烈な衝撃を感じる。全属性に耐性があるアルレオ弐でも、完全に防ぐことができないほどの雷撃は凄まじく、魚巨獣兵器の群れにも効果てきめんで、気絶したのか腹を上にして動かなくなった。


「ちょっと、リンネカルロ! もう少し手加減しなさいよ!!」


アルレオ弐ほどの耐性は無いディアテナに乗っていた渚は、かなり痛みを感じたのかご立腹だ。


「生きてるなら問題ないですわ。それより今のうちに壁を崩した方が良いんじゃないですの」


確かにリンネカルロの言う通りだ。魚巨獣兵器は動かなくなっているが、気絶しているだけで死んでいるわけではなさそうだ。渚もそれはわかっているようで、リンネカルロに文句を言うのを諦め、壁を壊す作業へと戻った。


俺も壁を壊すのに手を貸そうと思ったのだけど、その必要はなかった。渚から作業が終わりを迎えることを伝えられた。


「後一撃くらいで壁が壊れそう」


渚のその言葉を聞いた瞬間、ふわっと、浮き上がるような感覚になる。そして何かの力に引っ張られるように流され始めた。


見ると渚のディアテナが、柱の突起部分につかまって必死に流されないように耐えている。そりゃそうだ。壁を壊せば水の中にいる俺たちも当然流されるに決まっている。その事を魚巨獣との戦いですっかり忘れていた。このままだと水たまりの水ごとアルレオ弐も排出される。


「勇太! つかまって!」


そう言って渚のディアテナが手を伸ばしてくる。俺も必死に手を伸ばしてその手をつかんだ。


魚巨獣兵器の群れが、排水される流れでどんどん壁の穴に吸い込まれていく。その途中で、目を覚ましたのかピクピクと動き出すものもいたが、もうすでにどうすることもできない。流れに逆らう事もできずに、全ての魚巨獣兵器たちは壁の穴へと消えていった。

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