第355話 立場/結衣
「あら、結衣にメアリー。久しぶりですね」
見知った顔の女学者は、悪びれることもなくひょうひょうとそう言う。
「そちらもお元気そうで、ブリュレ博士」
メアリーは憎しみ一杯でブリュレ博士を睨みつけて挨拶を返した。
「そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。貴方たちもラフシャル様の技術でルーディア値が強化されたのでしょう? お礼を言われる筋合いはあっても、憎まれるいわれはないわ」
「よくもそんなこと言えるわね! この宝石をみなさいよ! こんなもの付けられて、どんな思いをしているか!!」
「凶暴な家畜に鎖を付けるのは普通じゃありませんか、それを外して欲しければラフシャル様の信頼を勝ち取ることね」
家畜と言う言葉を聞いた瞬間、妙な怒りが沸き上がる。私は感情に従い、思いっきりブリュレ博士の頬を右手で叩いた。パチンッと乾いた音がブリッジに響く。ブリュレ博士は頬を抑えながら私を睨みつける。
「なっ、何をするの!」
「私はエリシア帝国十軍神の一人、結衣です。エリシアの象徴となった十軍神を侮辱することがどういう意味か理解していますかブリュレ博士。あなたの為にラフシャルがこの赤い宝石を起動するとはとても思いませんよ」
十軍神は、ラフシャル、皇帝に次ぐ地位であることは周知の事実である。ブリュレ博士もそれは理解していた。いくらラフシャルを復活させた功労者で、メシア一族の一人でも、その事実を曲げることはできない。
「も、申し訳ございません、結衣さま」
ブリュレ博士は状況を理解したのか態度を急変させた。
「私の大事な副官にも謝罪しなさい」
「失礼しましたメアリー殿……」
自らが崇拝するラフシャルが決めた制度に何も言い返せないようだ。気持ちを抑えながらも謝罪した。
「まあ、よいです。それより、今回の任務の詳細を聞かせて貰えますか」
「任務は、二人の人物の復活が目的になります」
「その人物とは何者なのですか?」
「ライダーです。それも史上最強と言われた伝説級のライダーです」
伝説級ライダーとはまた大袈裟な話だ。話半分に聞いてさらに状況を確認する。
「その伝説級のライダーを復活させる目的はなんなのですか? 今でもエリシア帝国には十分な戦力があるじゃないですか」
「ラフシャル様は世界を相手に戦うつもりです。いくら戦力があっても十分とは言えません」
力を欲するものに上限などないということらしい。私はすでに任務に呆れていたが話を進めた。
「それで、私たちが援軍として呼ばれた理由はなんなのですか」
「遺跡の中で暴走したガーディアンが無数に暴れているエリアがあり、現戦力ではそこを突破することができませんでした」
「ガーディアンを駆逐すればいいのね」
ガーディアンとの戦闘経験はあるので、軽くそう答えた。
「お願いします。強力なガーディアンは無数にいますが、十軍神の力ならそれも容易いでしょう」
嫌味なのか、ブリュレ博士は世辞のように言う。その言葉には特に不快になることもなく頷いて同意する。
すぐに終わらせて帰りたかった。私は部下に出撃の準備をするように指示を出す。いくら強力なガーディアンでも、エクスランダーで構成されるローズニードルが苦戦するとは微塵も考えていなかった。
ローズニードルが全軍出撃すると同時に、スカルフィの残存戦力も出撃する。あまり戦力としては期待できないが、向こうにも立場があるだろうから共同戦線を拒否しなかった。
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