第352話 生存者

スイデル伯爵は討ち取り、生き残った敵軍は散り散りに逃げた。大将のいなくなった軍は脅威ではない。逃げた敵を追いかけるより、俺たちは監視部隊の救助を優先させた。


スイデル伯爵軍に執拗に攻撃されたことで、大破した魔導機のライダーの生き残りは一人しかいなかった。さらにその生き残った者も、かなりの重傷を負っている。ミライに空いている医療ポッドは二つしかない。どれだけの命を助けられるか不安になった。


「渚、清音。ソウブの搭乗員はどんな感じだ?」

「残念だけど、ほとんど助けられる状況ではないです」


医療ポッドの心配よりも、どれだけの生存者がいるかの心配をした方がいいようだ。


リンネカルロと二人で重傷のライダーを医療ポッドに入れると、俺たちもソウブの生存者の捜索に加わった。魔導機で慎重に瓦礫を撤去しながら生き残りを探す。


大きな金属をどかした時、下から見覚えのある姿の人物が現れた。

「エミッツ!! 大丈夫か!」

ボロボロのエミッツから返事はない。俺はアルレオ弐から降りて駆け寄る。それを見ていた清音も駆けつけてくる。


エミッツに反応はなかったけど、微かに息をしているのが確認できた。まだ生きている。

「清音! エミッツはまだ生きている!」

「急いでミライまで運びましょう」


二人でアルレオ弐に乗せるとミライまで急いだ。間に合ってくれよ……そう祈りながらアルレオ弐を飛ばした。


ミライに到着すると、フェリの外部ユニットが起動して迎えてくれる。ジャンも加わり、三人でエミッツを医療ポッドへと入れた。

「大丈夫そうか、フェリ?」

医療ポッドの計器を見ながら、何やら調整しているフェリにそう聞いた。


「はい。間に合ったようです。もう大丈夫でしょう」

それを聞いて心底安心する。



それから、さらに監視部隊の生存者を探したが見つけることはできなかった。俺は、もう少し早く決断できていればと後悔した。


「二人しか助けられなかった……」

俺の言葉に対して、ジャンがこう声をかけてくる。


「二人も助けられたとも考えられる。それに、お前は最初からエミッツたちを助けようとしただろう? 今回の件で責められるとすれば、それを止めていた俺だけだ」


ジャンは間違ったことはしていない。だけど、それでも全ての責任を負うような発言をしたのは俺を気遣ったのだと思う。なんともやるせない気持ちになり、黙ってしまった。使命を全うしようとしたエミッツ。大人の事情や立場を考慮して判断していたジャン。俺の考えが子供っぽいエゴだってのは分かっているが、やはり自分の考えを曲げることは出来ない。


「ジャン、すまない。次に同じようなことがあったら、俺は迷わず出撃すると思う」

それを聞いたジャンは微笑みながらこう答えた。

「お前はそれでいい。嫌なしがらみなんかを考えるのは俺の仕事だ」


出来のいい兄が、自由奔放な弟に言葉をかけるような暖かい気持ちを感じた。ジャンが一緒にいてくれて本当に良かったと思う。



ミライにある医療ポッドは最新式のもので、五日もあれば全快するそうだ。その間をどうするか話し合うことになった。


「全快するまで医療ポッドからは出せないからな。五日はリュベル王国に引き渡すこともできないぞ」

現状をジャンが説明する。五日という期間がネックになりそうだ。


「古代文明の研究施設までは後、どれくらいなんだ?」

俺がそう聞くと、すぐにフェリが答えてくれた。

「三日ほどで到着します」


「三日で到着するんだったら、用事を済ませた後に引き渡せば丁度いいんじゃない?」


渚の言うのも一理ある。三日で到着、二日で用件を済ませて、その後、リュベル王国の施設に回復したエミッツたちを送ればいいだろう。そのまま渚の意見は採用され、とりあえずは古代文明の研究施設へと向かうことになった。

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