第349話 待ち伏せ

長い嵐の日は終わりを迎えた。これでやっと目的地に向かうことができる。俺たちは三日ぶりに鍾乳洞から外にでた。


「やっぱりジメジメした鍾乳洞の中より、お天道様の下の方が気持ちがイイよな」

ジャンは日を浴びて背伸びをしながら気持ちよさそうな表情をしている。


「その意見には賛成しますわ。あの鍾乳洞に後二日もいたらカビが生えてたと思いますわよ」

たぶんカビは生えないと思うけど、俺も日の下の方がいいのには賛成である。



日のありがたみを感じながら、俺たちは鍾乳洞から山岳地帯を抜けて、見晴らしの良い平原地帯を移動していた。平和な移動と思ってのんびりしていると、それを邪魔する存在が待ち構えていた。


ジャンは何かに気が付いたのかミライを停止させた。そして操縦席の机の横にかけてあった双眼鏡を手に取る。


「どうやら待ち伏せしていたようだな」


ジャンが双眼鏡を覗きながらそう呟く。薄めにして遠くを見ると、確かに複数のライドキャリアや魔導機を確認できる。


「どうする、遠回りして避けるか?」

「いや、もう遅いな、すでに包囲されたようだ」

ジャンは四方を双眼鏡で確認しながらそう言う。見ると同じような部隊が四方から迫ってきていた。


この状況に監視部隊も気が付いたようで、通信でこう伝えてきた。

「スイデル伯爵が軍を立て直して待ち伏せしていたようです。我々が対処しますので、ミライは包囲の弱い北西に退避してください」


対処すると言っても、パッと見ただけでも監視部隊より、スイデル伯爵軍の方が遥かに多数である。とても勝てるようには見えなかった。しかし、ジャンはその申し入れにこう答えた。


「了解した。ミライは北西に退避して待機する」

「ちょっと待てジャン! エミッツたちだけじゃ勝ち目はないぞ! ここは俺たちも出撃して……」

「それはダメだと言ってるだろ。ここで俺たちが戦えばエミッツの立場も悪くする。さらに国家間での約束も破られ、ラネルやアムリア連邦にも迷惑をかけることになるんだぞ」


「何もしないで見てろって言うのかよ!」

「ミライが攻撃されたら反撃する。だからお前はアルレオ弐で待機していろ」

「意味がわからねえ! どうせ反撃するなら今出撃してもかわらないだろ!」

「過程が重要だ。俺たちが戦えるのは自分の身を守る時だけだ」


納得はしていなかった。しかし、エミッツの立場が悪くなったり、ラネルに迷惑をかけると言われたら動けるわけがない。俺は黙ってアルレオ弐で待機することにした。


渚や清音も俺と同じような気持ちなのか何も言われなくても、自分の魔導機へと向かう。それを見て、リンネカルロも流れに同調した。


監視部隊のライドキャリア、ソウブから魔導機が出撃する。数は20機くらいで、スイデル伯爵軍の魔導機の五分の一しかいない。


スイデル伯爵軍は状況を理解しているのか、まずは監視部隊を片付けるようだ。ソウブに攻撃する為に軍を展開する。ゆっくりと包囲していき、監視部隊を取り囲んでいく。少数の監視部隊は下手に戦力を分散しないで、密集して敵を迎え撃つ準備をしていた。


祈ることしかできない俺は、少しイライラとしていた。エミッツや、監視部隊の兵たちの顔が浮かぶ度に、こぶしを握り締めて気持ちを抑える。


スイデル伯爵軍の包囲が監視部隊に迫り、激突した。魔導機同士が激しくぶつかり、武器を打ち付け合う。数では劣る監視部隊だけど、ライダーの質では少し分があるようで互角に渡り合っている。


よし、これならもしかして……そう期待する。だけど、時間の経過とともに戦力差が露骨に結果として現れ始めていた。

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