第350話 総意
監視部隊の魔導機がまた一機やられた。これで残るのは半数の10機ほどだ。スイデル伯爵軍の魔導機はまだ八割ほど残っている。このままでは監視部隊は全滅するだろう。
「ジャン! 俺だけでいい! 出撃させろ! このままじゃ監視部隊が全滅する!」
ジャンは俺の言葉を聞いて何か考えたのか少しの沈黙の後こう言った。
「……少し待て、エミッツと話してみる」
ジャンはそう言うと、ソウブと回線を開いた。そしてこう提案する。
「こちら無双鉄騎団。リュベル王国中央軍の監視部隊へ提案する。傭兵として俺たち無双鉄騎団を雇う気はないか?」
そうか、その手があったか! 傭兵として監視部隊に雇われて戦うのなら体裁は整う。しかし、エミッツから意外な返答があった。
「申し入れは大変ありがたいですが、リュベル王国では傭兵の雇用には将軍クラスの許可が必要になります。自分にはその権限はありませんのでお断りします」
そんな決まりがあるとは盲点だ。クソッ、どうすればいいんだよ。
さらに一機の監視部隊の魔導機が撃破される。ソウブも、敵魔導機に囲まれてボコボコにされている。なんとか艦内への侵入は防いでいるが時間の問題だろう。
このままでは監視部隊は確実に全滅する。鍾乳洞で変に交流があっただけに彼らを見殺しにするのは我慢ならなかった。ジャンや当事者のエミッツたちがそれを納得しても、俺は納得しない。なんとか戦う理由を模索した。
「ジャン、ラネルに連絡して許可を貰ったらどうだ!? 状況を聞けば彼女なら理解してくれると思う」
「……そうだな、それに賭けるか」
ジャンも本当は助けたいと思っているようで、俺の提案に賛成してくれた。しかし、運が悪いことにラネルは連邦会議中で、すぐに話ができる状況ではなかった。
その間にも二機の監視部隊の魔導機が撃破される。ソウブを守っていた魔導機もやられ、敵機が艦内に侵入を始めた。このままでは長くは持たない、もう一刻の猶予も許されない。
監視部隊のエミッツから俺たちに向けてメッセージが送られてくる。それは謝罪の言葉だった。
「無双鉄騎団のみなさん。自分の力不足により、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。我々がスイデル伯爵軍を引き付けている間に、この場より去り、目的地へと向かってください。先ほど中央軍の本部には、我々の玉砕の覚悟を伝えました。のちにスイデル伯爵は中央からの討伐軍により処罰されるでしょう。それまでみなさんがご無事でいますようにお祈りしています」
それを聞いてあのエミッツの笑顔を思い出す。平和な時代がくればいいのにと願った言葉が頭の中を巡る。助けたい。心の底からそう思っていた。
「ジャン、もうダメだ! 後で問題になるとしても俺は出撃するぞ! 何かあったら全責任は俺がとる!!」
「責任を取るなんて軽々しく言うんじゃねえ! 個人で取れる責任なんてたかがしれてるんだよ。ちっ……仕方ねえな。リンネカルロ、清音、渚、それとフェリ、聞こえるか。馬鹿な大将が無茶すると言ってきかねえ。無双鉄騎団としてどう行動するか決を採るぞ」
「私は監視部隊になんの感情も持っていませんからどうでもよいですけど、勇太がそうしたいなら助けたら良いと思いますわよ」
リンネカルロは淡々とそう発言して、俺に同意してくれた。
「握手した一人一人の手のひらのぬくもりを思い出すと、見殺しにはできません。私も勇太と同じで我慢の限界です」
人一倍優しい清音も、監視部隊に情が移っているのか助けたくて仕方が無かったようだ。
「そうよね、ちょっとこの状況で助けない選択はないかも……」
世話焼きの渚も当然のように助ける方を選択する。
「私は勇太の判断に従います」
フェリは短く、自分の意思を伝える。
「たく、大将の馬鹿は伝染するのかよ。まあ、総意なら仕方ねえ……全員、出撃して助けてこい!」
その言葉を待っていた。しかし、総意ということはジャンもしれっと助けることに同意してるってことだよな。そう突っ込む時間も惜しいので、俺は何も言わずアルレオ弐を出撃させる。清音、リンネカルロ、渚もそれに続いて出撃する。四機の魔導機は、自分たちを監視する敵部隊を助ける為に、急ぎ向かった。
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