第346話 電光石火VS鎧袖一触

上段の構えで気を練る。中途半端な攻撃では清音には通用しない。一撃必殺、この一打で勝負を決めるくらいの気迫でいかないとダメだ。俺はさらに気を高めて攻撃に備える。


清音は俺の渾身の一撃を受けたいと思っているのか、仕掛けてこない。だけど、ジリジリとゆっくり近づいてきてプレッシャーはかけてくる。


清音に一瞬の隙も期待できない。隙を狙うならこちらが作り出さないとダメだろう。俺は上段からの強打による一撃でその隙を作り出すことにした。


長い一歩で一気に間合いを詰めて清音に接近する。こちらの攻撃の間合いは、向こうの攻撃の間合いでもある。強烈な殺気が清音から発せられて、一瞬、動きを止められる。しかし、ここで躊躇したらやられると思い、殺気を振り払うように剣を振り下ろした。


素早く、力を込めた剣が清音に振り下ろされる。清音は避けることもなくその一撃を受け止めた。清音の想定より威力があったのか、グラッと一瞬バランスを崩したように見えた。そのまま力を込めて押し込むつもりだったが、その隙を逃さぬように、次の攻撃を繰り出そうと剣を引く。


「甘い!!」


剣を引いた瞬間、素早く体制を切り替えた清音から光の一閃のような突き攻撃が繰り出される。胸に強い痛みを感じて後ろへと吹き飛ばされた。


「いたたたっ……バランス崩したように見えたのは罠かよ……」

「あれを見抜けないようではまだまだですね」


やっぱり清音には今一歩及ばないな。よし! 次は一本とるぞ! そう思って立ち上がったのだが……。


「清音、次は私と立ち会ってもらえますか」

「ちょっと待て渚、まだ一本しか取られてないぞ」

「何言ってるの、あれが本番だったら死んで終わりでしょう」

「いや、そうだけどな」


渚は強引に俺を下がらせると、清音と向き合う。幼少の頃から仕込まれた筋金入りの武道家だからか、清音の剣術家としての顔に刺激されたようだ。


「今までみてきた流派とは異質の気配……確かに勇太と立ち会うより面白そうでうすね」

「私も久しぶりに高揚してる。清音、思いっきりやりましょう」


二人は軽く会釈すると木剣を構えた。渚は居合術のように腰に付けた鞘に収めた剣に、手を添えるような格好の下段構え。清音は隙の無い中段の構えで渚を見据える。


ジリジリと滑るようにゆっくり動きながら、物凄い殺気の応酬が繰り広げられる。まるで真剣勝負のような雰囲気にこっちも緊張してくる。


最初に動いたのは清音だった。様子をみるような軽い突きで渚の鼻先を狙う。合気道の達人である渚は見極めが上手い。その剣が届かないことを見抜いたのか眉一つ動かさなかった。


そのやり取りで渚の技量を悟った清音の目の色が変わる。俺との鍛錬では見せないような気迫が溢れ出していて、本気モードになったのが分かる。


清音は気合を込めて剣を振った。巨木でも一撃で斬り落としそうな剣気に渚も動く。剣を振り上げて、清音の剣を受け止める。しかし、渚の剣はすぐに清音の剣に押し負けて下を向く。だが、これは光里流合気術の流変とういう太刀技なのは知っていた。受けて攻撃の方向を変化させる技で、清音の剣は狙いとは違う方向へと流された。


これには流石の清音も驚いている。慌てて後ろにさがると、構えを変えた。次の清音の構えはあまり見ないもので、剣の柄を顔の横に持ってきて剣先を相手に向ける独特のかたちだ。


その構えからの清音の攻撃は早かった。まさに残像が残るような連続の突き攻撃で、俺だったらまず対応できないだろう神速の連続技だった。たぶん、さっきの渚の技を見て、力の剣は通用しないと敏捷の剣に切り替えたのだろう。


この速さの剣を流すのは無理だろう。渚がどうするのか見ものである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る