第345話 暇な時間
「ちょっと勇太! どうしてあなたの洗濯物が私の洗濯籠に入っているのよ!」
渚が洗濯すると言うので、そっと俺の汚れた衣服も洗濯籠に入れておいたのだが、どうやら気づかれたようだ。
「少しくらい増えても労力は変わらないんだからいいだろう」
この世界にも洗濯機みたいな道具が存在する。水も使わず衣服を綺麗にする魔導洗浄箱と呼ばれるもので、使い方は洗濯機と大差はない。だから少しくらい洗い物が増えてもいいだろうと思っているのだが、渚は納得していないようだ。
「そういう問題じゃないわよ! 女の子の洗い物と一緒にするなんて、デリカシーが無さすぎ!」
「なんだよ。昔、うちのかーちゃんが入院した時、俺の洗濯物はお前んちのかーちゃんがしてくれてたから一緒に洗ってたんじゃねえのか?」
「いつの話をしてるのよ! 無知な幼女と、年頃の娘の感覚を一緒にするんじゃないわよ! ──あっ! 下着まで入れてる! 何考えてるのよあんたは!!」
「人のパンツを、ばっちい持ち方するんじゃねえ!」
「何言ってるの! ばっちくない理由を言いなさいよ!」
確かに汚いから洗おうとしているわけで、そんな説明などできるはずもない。そもそも口喧嘩で渚に勝ったことがないので勝負になるわけがないのだ。俺は気のない感じで反撃するが、全ての言葉を倍の威力で言い返された。
そのあと、なんだかんだ文句をいいながらも渚は俺の洗い物も一緒に魔導洗浄箱に入れてくれた。結局、洗ってくれるんだったらブツブツ文句いわなきゃいいのにと思いながらも感謝する。
とにかく嵐がやむまでやることがない。だったら洗濯くらい自分でしなさいよと渚に言われそうなので口にはしないが暇をしていた。
「勇太、少し剣の鍛錬に付き合ってくれますか」
暇してるのを察したのか、清音が鍛錬を誘ってきた。そうだな、剣の腕が鈍ってたら復活したオヤジに何言われるかわかったもんじゃない。
「よし、やろう」
「それでは、ミライの格納庫は狭いので外でやりましょう」
フガクやムサシと違ってミライの格納庫は余分なスペースがない。俺と清音は剣を持ってミライを出た。
「勇太、どこ行くのよ」
外に出るとき、丁度、渚が通りかかり、声を掛けてくる。
「剣の修行だ。日々鍛錬だからな」
「ちょっと、私に洗濯させておいて呑気なものね」
「呑気とはなんだ。剣の鍛錬は立派な仕事だぞ」
「まあ、そうかもしれないけど……そうだ。私もちょっと体を動かしたいから参加していい?」
そういや、渚って太刀を使うのいやに上手かったよな。清音との立ち合いも見てみたいと思いOKした。
「あっ、みんなどこいくのですの?」
リンネカルロがゾロゾロ外にでかける俺たちを見つけ慌てたように声をかけてくる。
「外で剣の稽古だよ」
「わっ、私もいきますわ!」
そう言ったが、近くにいたジャンにこう言って止められる。
「リンネカルロはダメだ。お前は見張りの当番だろ! ちゃんといつでも出撃できるように待機していろ!」
監視部隊が攻撃してくる可能性は低そうだけど、当番制で一人はいつでも魔導機を動かせるように待機していた。今はリンネカルロの当番の時間だった。
ジャンに指摘されて悔しそうにこちらを見ている。そんな顔されても困るんだけど……。
まずは俺と清音が立ち会う。向き合って挨拶すると、一気に近づいて木剣を振るう。カキッと乾いた音が響いて初打は弾き返された。
「腕は鈍ってないようですね。復活した父上も喜ぶと思います」
「いや、オヤジのことだ。成長してなかったら、なにやってたんだと怒ると思う」
「フフフッ、確かにそうですね。それではみっちり姉弟子の私がしごいてあげましょう」
清音はそう言うと、スリムな体からは想像できないような猛攻を繰り出してきた。五手くらいまではなんとか防いだが、六手目で思いっきり肩を強打された。痛みで一瞬の隙ができ、さらに何度も木剣を打ち付けられた。
「くぅ~ひっさしぶりの清音の剣は効くな!」
「変な趣味に目覚めてないで、反撃しなさい!」
確かにそうだ。俺は後ろにさがり体勢を立て直すと、木剣を上段に構えて攻撃の姿勢に移った。
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