第344話 ひと時

「どれくらいでおさまるのかしら」


渚が鍾乳洞の外の光景、激しく荒れ狂う天候を見てそう呟く。


「一日で収まる事もあれば一週間くらいこの状態が続く事もある。天候には人間さまもお手上げだからな」


「一週間! ちょっとそれは勘弁して欲しいですわね」

リンネカルロが心の底から嫌がっているのがよく分かる口調でそう言う。一週間もこんなところにいたら、確かに自由奔放で行動的なリンネカルロはおかしくなってしまうかもしれない。


「まあ、そんなのは稀な事だからな。ほとんどは二、三日で収まるはずだ」

一週間もここに足止めされるのは俺も嫌だから、それくらいで天候が回復するのを願う。



広い鍾乳洞と言っても閉鎖された空間である。監視しいてるソウブと俺たちの乗るミライが今までないくらいに接近している。攻撃してくることはないと思うが、警戒は怠らないようにしていた。交代でソウブの様子をさぐりながらブリッジで待機する。そんなまったりと緊張の空気の中、フェリがこう話を切り出してきた。


「勇太。提案なのですが、あのソウブというライドキャリア、今の間に私が修理してはどうかしら」


確かに天候が回復するのをただ待つだけだから、特にフェリに何かやってほしいことはない。このままだとソウブは壊れてついてこれなくなるだろうから今のうちに修理するのもありだな。そう考えたのだが、フェリの言葉を聞いてリンネカルロが反応する。

「ちょっと待って、敵のライドキャリアの修理なんて、そんなことまでしてあげる義理なんてあるかしら」

もっともな意見ではある。ちょっとした弾みで戦闘になる可能性のある相手を助けるのはよく考えた方がいいかもしれない。


「敵国の所属ではありますが、現在、あの部隊と直接、敵対しているわけではありませんし、私は問題ないと思いますけど」

清音はフェリの意見に賛成する。優しい清音のことだ、ソウブが壊れて監視できなくなるとエミッツが困ることになると思ったのかもしれない。


「俺的にはどっちでもいい。こちらにとってはソウブが壊れようが修理されようが大した問題じゃないからな」

ジャンはどちらでもよいと言っている。損得で考えるジャンらしい見解だ。


「私は修理してあげた方がいいと思うけど、勇太はどう思ってるの?」

渚も修理に賛成のようだ。俺は少し考えてこう返事をした。


「フェリにソウブの修理をお願いしよう。こちらにそれほど影響がないなら貸しを作っとくのもいいだろうしな」


リンネカルロはまだブツブツ言っているが、多数決ってこともあり、エミッツに修理を申し入れることになった。エミッツは思わぬ提案に最初は戸惑っていたが、やはり監視できなくなるのは困るようで、最後には修理を受け入れた。


「ありがとうございます。ソウブのメカニックでは修理できないほどに破損していましたので助かります。それにしてもそちらのメカニックは優秀なようですね。コアに直結している繊細な部分を、工房でもなんでもないこんな場所で修理できるなんて……」


エミッツはフェリの手際に驚いていた。コアを生成する技術を持っていると知ったらもっと驚くだろうな。



ソウブの修理のこともあり、監視部隊との距離が少し縮まったように思う。こちらを見る監視部隊の兵たちの目があきらかに変わった。最初は一分の隙も無い危険物でも見るような険しい表情だったけど、随分と表情がやわらかくなっている。ミライのブリッジから様子を見ていて向こうの兵と目が合った時、会釈をしてくる者さえいるほどに雰囲気は良くなった。


「フェリの修理は無駄じゃなかったようだな。ギスギスした空気がだいぶ和らいだ」

俺が雰囲気が変わったことを伝えると、ジャンは雑誌に目を通しながらこう返事する。

「向こうじゃ、凄いメカニックがいるって噂になってるんじゃねえか。結果オーライでいいだろうよ」


「これで万全になった監視部隊と戦闘に、なんてことになったらお笑い種ですわよ」

自分の意見が通らなかったことをまだ気にしているようで、リンネカルロは愚痴っぽく言う。確かに戦闘ってことになったら笑い話にもならないかもしれないけど、不思議とそうなっても後悔はしないように思えた。

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