第347話 接戦
清音の神速の連続突きに、渚は何もしなかった。いや、何もしないように見えただけだった。清音の突きは全て動いていない渚まで届かなかった。あの清音が間合いを見余ることなどありえない。よく渚の足元を見ると、ゆっくりとした足さばきで間合いを変化させている事に気が付いた。
連続突きを見極められたと悟った清音は、大きく踏み込んで剣を振る。渚の足を狙った鋭い一撃に、間合いの変化だけでは対応できなかったのか大きく避ける。
清音は避ける動作を予測してすぐに追撃の剣を繰り出していた。胸を狙った追撃の一撃は、渚の避ける動作を予想して放たれたようで、体勢的に避けるのは難しそうだった。渚はとっさに剣でそれを受ける。さすがに流変を使う余裕はなかったようで、受け止めるのが精一杯だったようだ。
清音がギリギリと力で押し込む。力は清音の方が上のようだ。渚はじわじわと後退させられる。
瞬間、渚が木剣を手放してその場から離脱する。これにはギャラリーの俺だけではなく、清音も面食らった。渚は驚いている清音の隙を付き、間合いを一気に詰める。そして手刀で木剣を持つ清音の手を払った。
不意を突かれ、その手刀で清音も木剣を叩き落される。さらに渚は密着して腕を決めに行く。しかし、ヴェフト流にも体術は存在する。腕を完全に決められる前に清音は肩の関節を外すようにして渚の拘束から逃れる。そして前転して離脱すると、渚が手放した木剣を手にした。それを見た渚は、清音が落とした木剣を拾い構え直した。
その攻防の後、おぉお~、と歓声があがる。何事かと見ると、いつの間にかギャラリーが増えていた。監視部隊の連中が、渚と清音の立ち合いを見学している。
ギャラリーが増えたことに気が付いてないのか、気にしていないのか、二人は真剣な表情で向き合う。ジリジリとゆっくり近づくと、一気に剣を打ち合い始めた。力と力、スピードとスピードがぶつかり合う激しい打ち合いは、真剣勝負にすら見えるほど強烈な攻防になった。
力とスピードでは清音が上回っているように見えるが、渚の技術がその差を埋めているようだ。形勢は互角で、どちらが勝ってもおかしくない。そんな勝負を決めたのは小さな溝であった。清音が渚の一撃を受けて一歩下がったところに、不運にも手のひらサイズくらいの溝があり、清音の足がそこに取られる。少しの隙であったが、渚にはそれで十分であった。
「隙あり!!」
渚の木剣が清音の胸を突く。真剣であれば致命傷になる一撃は見事な一本となった。
「まいりました。渚にここまでの武の才があるとは驚きです」
「最後のは完全に運だし、あのまま戦っていたらどうなっていたかわからないよ」
「いえ、あんな溝に足を取られるのは未熟な証です。父上だったらそんなことにはならないでしょう」
確かにオヤジなら、どこに目が付いてんだと思うような回避能力を発揮しそうだ。
立ち合いが終わると、自然と拍手が起こった。二人の勝負に感銘したのか、監視部隊の兵たちが、二人を称賛する。
「こんなところで、これほどの剣術を目にできるとは驚きです。アムリア連邦ではあのレベルが普通なのですか?」
エミッツも立ち合いを見ていたようで、感心しながら俺にそう話しかけてきた。
「いや、あの二人は特別ですよ。清音は元剣豪団だし、ちょっと異質かな」
「清音!? 剣豪団! まさかあの天下十二傑の剣帝、清音様ですか!!」
やっぱり有名人の清音のことは知っているようだ。エミッツは有名人に会ったファンのように興奮している。
「まさかあの清音様に会えるなんて……アムリア連邦に清音様が味方についてたとなると、前の戦いでの我が国の敗北も少しは納得がいきます」
自国の敗北を受け入れ、敵国のライダーを憧れの目で見る。エミッツって、最初の印象ではガチガチのエリート軍人といったイメージだったけど、意外に人間味のある人物なのかもしれないと思った。
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