第324話 全方位戦/ジャン

基地は完全に囲まれている。戦力差から考えると、どこかの門が突破されて基地内に乱入されたらもう勝ち目がないだろう。基地の入り口は東西南北に一か所づつあり、この全てを守る必要がある。さらに言うと、基地の防壁もそれほど強固なものではないので、入り口だけではなく基地の周り全てが防衛対象となるので、かなり難易度の高い防衛戦が予想できる。


四日目の戦い。包囲していた敵軍がゆっくりと基地へと近づいてきた。完全に包囲された状態では眠れぬ兵も多かっただろう。万全とは程遠いコンディションのなか、自分たちより遥かに多い戦力と戦わなければいけない。


無双鉄騎団は東門以外の各門に散らせて配備した。東門はある仕掛けをしているのであえて守りを弱くしていた。


「予想通りだな。間口が広く、防御の弱い東門にかなりの戦力が殺到してきている」


東門は本土へ続く街道側の門の為に、防御力より、資材や物資の搬入のしやすさを考慮した作りになっている。敵軍もすぐにそれを理解しているようで、かなりの規模の軍を送り込んできた。



その行動を予測していた俺は事前に準備をしていた……それは東門を捨てる準備である。


「東門の守備隊は、三度のアロー攻撃後、撤退!」

ぜんぜん抵抗が無いのは逆に怪しまれる。三度の攻撃を指示して守備隊を後ろに下がらせた。


東門を攻撃してきた敵部隊は、固く閉ざした門を破る為に攻撃を集中する。攻城戦用の兵器を事前に準備していたようで、数十機の魔導機が金属製の大きなクイのような武器で何度も門に突撃する。三度の突撃で門は破壊されて、敵軍に突破された。


「東門がやぶられました!」

「よし! イフリート爆石に点火!!」


突破された東門から大量の敵機が突入してくる。それを見て、東門の地面や壁に設置していたイフリート爆石を一気に爆発される。巨大な爆発は突撃してきた敵軍だけではなく、東門の周りの防壁の一部も吹き飛ばす。


まさか防壁や門ごと爆破するとは敵も思っていなかったようで、今の一撃で数百機の敵を大破させた。


しかし、この爆破により、東側に大きな穴ができる。その穴を目指して敵の後続が殺到してくる。だが、それも計算のうちである。


防壁に空いた穴に突撃してきた敵軍の足が止まる。穴の先には、次の防壁が立ちふさがっていた。それは密集して並べていたライドキャリアである。さらにそれらのライドキャリアに搭載しているサラマンダー主砲はすでに防壁の穴に向いていた。


「全サラマンダー主砲発射!!」


次々と放たれるサラマンダー主砲が、突撃してきた敵魔導機に襲い掛かる。穴を通る為に密集していたこともあり、至近距離からの効果的な砲撃は敵軍に甚大な被害をもたらした。


この戦いで用意した唯一の策が上手くいった。しかし、小細工はここまでだ。勝負はここからだな。


「ジャン、西門の攻撃が激しい! このままじゃ一時間も持たないかもしれないね」


アリュナの指摘で気が付いた。敵軍も馬鹿じゃないようだ。東門への攻撃の集中の裏で、逆方面の攻撃にも力をいれていたようだ。


「東の守備隊を西に送るから耐えてくれ」

「そんなことして東は大丈夫なのかい?」

「ライドキャリアの砲門もあるし、最低限は残しておくから大丈夫だ。それに痛い目をみて、警戒しているだろうからしばらくは敵も迂闊には近づいてこないだろ」


この言葉は半分は本音で、もう半分は願望であった。このまま東門を攻められ続けたら、サラマンダー主砲の限界がきた時点で終わり確定である。魔導機に接近されたらライドキャリアはどうすることもできない。


西門だけではなく、北も南も敵の猛攻を受けていた。全方位の敵に対応するには戦力が足らなすぎる。二日どころか、今日一日持つかどうかも怪しくなってきたな……。

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