第323話 侮り/春馬
「アムリア連邦にあれほどのライダーがいるとは驚きだ」
三日目の戦いが終わり、母艦に帰還してきたケイマイオスさんがそう叫んだ。あの魔神が認めるほどのライダーが新興国のアムリア連邦にいるとは予想外である。
「ケイマイオスさん。その敵はどんな相手だったのですか」
「金色の魔導機に乗ったライダーで、攻守のバランスの素晴らしい強敵だった。乗り換えたばかりのリガンディでなければやられていただろう」
リガンディはケイマイオスさんの新しい機体で、起動ルーディア値30万の怪物級の魔導機だ。それと互角に戦う相手もまた怪物級の強さだったのだろう。
「しかし、これで今回の戦いでの俺の目的がはっきりした。アムリア連邦最強である、あの金色の魔導機のライダーを絶対に倒してやる!」
そう強く宣言した。魔神ケイマイオスに狙われるとは気の毒としか思えない。
「しかし、ケイマイオスさん、撤退時に敵の最後尾にいた黒い敵機も恐ろしく強かったですよ。その金色の機体はあれより上だったのですか」
「俺も見た。あれは凄まじい強さだったな。ニトロルーディアで強化された一線級のライダーもかなりやられたと聞いています」
仲間のライダーたちがそう口々に語る。
「ほほう。それほどの敵がいたのか、俺は残念だが逃げる敵に興味がないので、追撃には参加しなかった。そんな敵がいるなら見ておくのだったな」
三日目の戦い。敵軍の撤退が早く、足の遅い僕のギリメカラの活躍の場がなかった。だからその二人の強敵の姿は見ていない。しかし、これで敵方に二人は強敵がいるということがわかった。
仲間たちはヴァルキア帝国の覇王あたりに手柄を取られぬように、リュベルでアムリア連邦の強敵の二人を討ち取ると息巻いた。同盟関係になったとしても、やはりヴァルキアとリュベルはライバル関係であるのは変わりはないようだ。
「ケイマイオスさんには悪いですが、その強敵、俺が討ち取って見せます!」
「いや、俺が討ち取る! ニトロルーディアで強化されたこの力、見せてくれるわ!」
みな、ニトロルーディアで強化されて、自分の力に自信があるのか思い思いにそう宣言する。冷静に考えたら魔神ケイマイオスでも苦戦するような相手を簡単に倒せるわけないのだが、その判断もできないくらいに熱くなっているようだ。
明日こそは僕も活躍しようとギリメカラの整備をしていた時、珍しい客がやってきた。
「春馬様、ヴァルキア帝国からお客さんです」
そう言われて整備の手を止める。ヴァルキア帝国のお客さんって誰だろう? そう思いながら訪ねてきた客人のもとへといった。
「久しぶりだな春馬。元気にしていたか」
そこにいたのはクラスメイトの岩波蓮くんだった。サッカー部で、クラスの人気者だった彼が僕を訪ねてきてくれたようだ。
「岩波くん……どうしたの急に……」
「いや、リフソー皇子からお前のことを聞いてな。久しぶりに会いたいと思ったんだよ」
リフソー皇子とは技術者会議から親しくさせてもらっている。ヴァルキア帝国からの客人ってことで一番最初に頭に浮かんだのは皇子だった。
「そうなんだ。僕も君に会えて嬉しいよ」
本当はそれほど嬉しいわけでもないけど、社交辞令的にそう言った。
「お前、凄い魔導機作ってんだってな。リフソー皇子が言っていたぞ」
「君もリフソー皇子とそんな話ができるなんて随分出世しているみたいだね」
「まあ、ニトロルーディアで爆発的にルーディア値が伸びたからな。それに比例して地位も上がったよ。春馬もリュベル王国ではかなり発言力があるって聞いてるぞ」
「僕も君と同じだよ。ニトロルーディアでルーディア値の上昇したことで、一目置かれているだけだよ」
この世界はルーディア値が全てだと、あらためて認識する。
「それより、春馬、お前、他のクラスメイトがどうなってるか知ってるか?」
正直、クラスメイトのことなど興味なかった。それはこの世界でも、前の世界でも同じだった。
「いや、知らないけど」
「俺も誰がどこに行ったかも覚えてなかったくらいなんだけど、一人、クラスメイトから、この世界の有名人が誕生したみたいだな」
「えっ、誰のこと?」
「なんだよ、エリシア帝国の十軍神の話は聞いてないのかよ」
最近は自分の魔導機のことばかり考えていたので、そう言った話は耳に入っていなかった。
「それで、その有名人になったってのは誰なんだい?」
「白雪結衣だよ。エリシア帝国、十軍神の一人として注目されてるぞ」
「白雪さん! そ……そうなんだ……」
「なんだよ、春馬。お前も白雪結衣が好きだったのか」
「ぼ……僕は別に……」
「そう、誤魔化すなって。何を隠そう俺も白雪結衣が好きだったからな。だから彼女がエリシア帝国に行ったのは覚えていたし、十軍神で結衣の名がでてすぐわかったんだけどな」
「そうなんだ……」
白雪結衣のことはもちろん憧れていた。あんな綺麗な女性は他にはいないよな……思い出すと、無性に彼女に会いたくなった。前の世界ではどうしようもなく地味な僕だったけど、この世界の僕なら……。
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