第320話 苦肉の策/ジャン
ナナミと強敵機が戦っている間も、敵軍は激しい攻撃を絶え間なく繰り返していた。このままではペフーのギガンテスもそう長くは持たないだろう。
強敵機はナナミに任せるしかないが、その他の敵は俺たちでどうにかしなければ……そう言っても戦力は限られている。この戦況をひっくり返せるような策は中々思いつかなかった。
強敵機の攻撃で倒れていたロルゴのガネーシャが立ち上がった。そのままナナミに加勢しようとしたので止める。
「ロルゴ! そいつはナナミに任せて、お前は前衛に戻ってくれ。このままだとペフーが持たない」
「でも……ナナミが……」
「わかるが、ペフーの方もやばい。ナナミならそんな奴、すぐに倒してくれる」
「わかった……ナナミは強いから大丈夫……」
そうは言ったが、強敵機も強いのは間違いない。ナナミと強敵機の互角の戦いは続いていた。それにしてもルーディア値50万のナナミと互角に戦うとはいったい何者なんだ……。
その疑問はファルマが晴らしてくれた。魔導機マニアは伊達ではないな。
「ジャン。ナナミと戦ってる機体、もしかしたらリュベルの魔神かもしれない」
「なんだと、ファルマ、それは本当か!?」
「たぶん……機体は変わってるけど、胸にある紋章は魔神のと一緒だよ」
リュベルの魔神なら子供でも知ってる有名ライダーだ。天下十二傑の一人にして、リュベル王国両翼の一人、ケイマイオス。それならあの強さも納得するが、常識はずれに成長しているナナミと互角に戦えるっていうのはどういうことだ……魔神ケイマイオスのルーディア値は五万弱だったはずだ。やはり、リュベル王国やヴァルキア帝国もルーディア鍛錬の技術を手に入れてるのかもしれない。それなら想定外の強さも説明がつく。
ロルゴも前衛の防御に戻ったが、状況は悪化するばかりだった。前衛の重装魔導機は一機、また一機と倒され、防御壁がじわじわと剥がされていく。このまま耐えるのは不可能であろう。俺はある決断を下そうとしていた。
「アリュナ、そっちの状況はどうだ?」
「ダメだね。敵の数が多すぎて対応しきれない。このままだと陣形が崩壊するのも時間の問題だね」
「清音。そっちはどうだ」
「こちらも厳しいです。強い魔導機も多くて手が回らない。味方もよく戦ってるけど、数の差は埋めようがないわね」
やはり予想通り他の戦場の状況も良くないようだ。ここはやはりあの手しかないだろう。
「こちら無双鉄騎団。各、指揮官に緊急提案する。このままでは敵を抑えることはできない。全軍、後方基地まで撤退して、防衛してはどうだろうか」
後方基地は、市街地のすぐ近くになる。民間人にも被害がおよぶ可能性もでてくるし、敵軍がアムリア連邦の他の地域へとなだれ込む危険性もある。戦場の拡大のリスクや、民間人への危険をおかしても、ここは時間を稼ぐ必要があると俺は考えた。
「後方基地まで撤退すれば後がなくなるぞ。おそらく基地は完全に包囲されるだろうし、援軍の到着が遅れれば全滅は免れぬだろう」
「いや、私はその提案に賛成するぞ。このままではこの戦場で全滅するだけだ。援軍に期待してここは基地まで下がるべきだ」
「そもそも援軍の状況はどうなっている! もう三日目なのにどこからも戦力が到着しないぞ!」
援軍の到着の遅れは、おそらく量産機の配備や、サラマンダー主砲の実装で軍の改変がおこなわれていることも関係しているだろう。簡単に言うと、攻めてこられるタイミングが悪すぎたのだ。アムリア連邦の広い国内では軍を動かすだけでも時間がかかる。準備を含めると、どれくらいで援軍が到着するのか予想もできない。
基地までの撤退には懸念を示す指揮官も多くいたが、やはり他に選択肢はないだろうということで、撤退が決まった。しかし、この状況での撤退も楽では無い。無双鉄騎団と練習生部隊で殿を務める必要があるだろうと俺は考えていた。
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