第314話 魔象と神象/ファルマ

どうしよう……ジャンに指揮を頼まれてしまったけど、私にそんなことできるかな……。


ナナミとロルゴは友軍の支援に向かうのに不安はないようだけど、私は緊張からか、妙に気持ちが落ち着かない。普段、勇太やアリュナが簡単に指示を出しながら戦ったりしてるけど、結構凄いことなんだなと実感している。


「ファルマ、あそこの戦場じゃない?」

ナナミが激しい戦闘がおこなわれている盆地を見てそう言う。


「そうだね、あそこだ」

私はすぐにナナミの言葉に同意するが、彼女の頭はすでに目に入る光景に意識がいっているようで、私の返事をかき消すように興奮してこう言う。


「うわ、何あの大きな魔導機! 変な形してるし、四本足で動いてるよ。あんなのとどうやって戦えばいいのかな~」


巨大な魔導機は、戦場のど真ん中でゆっくりと歩きながら、背中に搭載している四つの砲門から強力な砲撃を繰り出していた。アムリア連邦の魔導機部隊は、その敵に対して為す術がないのか、ウロウロと周りを逃げ惑うだけで、どうすることもできないようだ。


強力な砲撃は一撃で魔導機を粉砕している。早くあれを何とかしないとみんなやられてしまう。


「ロルゴ、あの魔導機の足を止められる?」

私がそう聞くと、ロルゴは少し考えてこう返事をした。

「おで……がんばって止めてみる……」

止める方法は思いつかないようだけど、私の願いに応えたいのかそう言ってくれる。そこで私は具体的な指示を出した。サラマンダー主砲の一斉射撃を耐えれるロルゴのガネーシャなら大丈夫なはずだ。


「ロルゴ、あの四足歩行の前に盾を構えて立って、できるだけ目立つように気を引いて。その隙にナナミは後方から近づいて、お腹辺りを攻撃してみて」

「うん、わかった。やってみる」

「おで……ファルマの為にがんばる……」

私の為じゃなくて友軍の為なんだけど、ロルゴが混乱するかもしれないので、そこはあえて訂正しなかった。


作戦を実行する前に味方の被害を少なくする為に、友軍の指揮官に声を掛けた。

「こちら無双鉄騎団です。今からあの四足歩行の魔導機の排除を開始しますので、アムリア連邦の魔導機部隊は、周りの護衛の敵魔導機の対処をお願いします」

「おおっ! 待っていました! わかりました。周りの敵魔導機部隊は任せて下さい!」


すぐに指示が出たのか、四足歩行の魔導機からサササッと、蜘蛛の子を散らすように友軍機が散っていく。四足歩行は逃げる友軍機を追いかけようとするが、ロルゴのガネーシャが立ちはだかり、それを阻止する。


四足歩行がガネーシャに気が付き、ゆっくりと狙いをガネーシャにあわせると、四門の砲台が一斉に火を噴いた。ロルゴは盾を構えてそれを受け止めた。凄まじい爆炎がガネーシャを包み込む。ロルゴとガネーシャなら耐えられるとわかっていても心臓の高鳴りはやまない。


「ロルゴ!」

二十門のサラマンダー主砲の一斉射撃に耐えれるガネーシャだけのことはある。四足歩行の四門の砲撃など、簡単に耐えていた。

「おでは大丈夫……」


四足歩行は無傷のガネーシャを見てさぞ驚いただろう。むきになった四足歩行はさらに砲撃をガネーシャに放った。完全に四足歩行の意識はガネーシャに向いているようだ。


「ナナミ、今のうちに!」


ナナミのヴァジュラは四足歩行の後ろから素早く近づくと足元に入り込んだ。そして四足歩行の腹を狙って剣を突き上げるように振り上げた。ザクっと剣が突き刺さったように見えるが、分厚い装甲を貫くまではいかなかった。


「くっ! ファルマ、ダメだよ! この魔導機は大きすぎるよ!」


腹に攻撃を受けて、ナナミの接近に気が付いた四足歩行は暴れるように動き回り、ヴァジュラを踏みつけようとした。ナナミは慌てて足元から退避する。


この四足歩行の魔導機の強みは背中の砲門だけじゃなかった。大きな体に分厚い装甲……私は鉄壁の守備力の前にどうしていいかわからなかった。

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