第310話 戦果と生還/ジャン

集中砲火はサラマンダー主砲が悲鳴を上げ始めるまで続けた。地形が変わるほど威力にクアドラプルハイランダー専用機のシュティンガー部隊も一溜りもなかったようだ。そのほとんどの機体がボロボロに破壊されて地に倒れている。


そんな敵機の残骸が散らばる中、俺はガネーシャを探した。あの大きなガネーシャが、小さく屈んで盾に隠れているのを見つける。炎の煤や、爆風などで破損しているのが見えるが、大破は免れているようには見える。しかし、ガネーシャは盾を構えたその格好で、時が止まったように動かなかった。

「ロルゴ!! 大丈夫か!!」


ロルゴに何かあったら俺はどう責任を取ればいいのか……そう焦っていたが、あの間の抜けたおっとりした声が聞こえてきて心底ほっとした。

「おで……大丈夫……おで……役に立ったか!?」


「役に立ったぞ、ロルゴ! 最高の仕事をやってくれた!」

「凄いよ、ロルゴ。あんたの活躍で敵部隊を殲滅できたんだから自慢していいよ」

「ロルゴ、頑張ったね」


仲間たちからの言葉に、ロルゴは泣きそうになっているのか、うっうっと言葉を詰まらせて声にならないようだ。



戦果は説明するまでもない。敵部隊を一掃して、多数の敵機を破壊した。全体的な状況も悪くはなかった。敵が無双鉄騎団の持ち場に多くの戦力を集中してくれたおかげで、他のアムリア連邦の軍も優勢に戦闘をおこなえたようだ。


日が暮れ始め、敵軍は一時的に後退を始めた。宗教的、文化的な理由があり、ヴァルキア帝国やリュベル王国は夜の戦闘を嫌う。このまま初日の戦いは終了するだろう。


夜戦を嫌うかと言っても、絶対に夜襲がないとは言い切れない。警戒をしながらも、明日に備えて十分な休息を取る必要があった。特にサラマンダー主砲の集中砲火を受けたロルゴは、機体もライダーもメンテナンスが必要であろう。


「ライダーはロルゴ以外でローテー組んで、順番に休息をとるぞ。休息しているメンバー以外は戦闘待機と見張りだ」

俺が戻ってきたアリュナたちにそう言うと、ロルゴが珍しく強い口調で反論してきた。

「おで……おでもローテー入る! おでも戦闘待機する!」

「しかしよ……あれだけのダメージを受けたんだ。今晩くらいは無理しない方がいいんじゃねえか」

「おでもみんなの仲間! おではみんなと一緒がいい!」

これほど熱く言ってくるロルゴも珍しい。その気持ちを汲んだのか、アリュナがロルゴを擁護する。

「ジャン。本人がやりたいって言ってるんだ。ローテーの人数が増えるとみんなが楽になるし、ここはやってもらおうじゃないかい」


「ふっ、そうだな。じゃあ、ロルゴ、しんどいかもしれないけど、ローテーを頼めるか」

そうお願いすると、ロルゴは嬉しそうに何度も頷いた。



夜には、アムリア連邦軍の指揮官たちと初戦の被害状況の確認と、明日の作戦の会議が開かれた。言霊箱での音声のみの会議なので表情はわからないけど、口調などで判断すると参加した指揮官たちは皆、初日を優勢で戦いを終えたことでご機嫌のようだ。


「ヴァルキア帝国とリュベル王国の共闘でアムリアに攻めてきた時はどうなることかと思ったが、やはり我が軍の力はすでに大陸屈指に成長しているようですな」

「しかし油断はできませんぞ。三強国のうちの二国を相手に戦争をしているのは現実ですからな」

「しかし、無双鉄騎団、噂以上の活躍に頼もしい限りです」

「そうですな、無双鉄騎団がいるかぎり、負ける気がしませんな」


評価してくれるのは嬉しいが、無駄に褒めあっていないで、もう少し明日の作戦を真面目に考えた方がいいと思うのだが……誰も話を切り出さないので俺が言うことにした。


「それで明日の作戦はどうするつもりだ」

「明日は今日と同じでようでしょう。布陣もうまく機能しているようですし、変更する必要はないでしょうな」

「しかし、今日の戦いをみて、敵は何か仕掛けてくるかもしれないが……」

「その時はその時、無双鉄騎団にどうにかしてもらいましょう。ハハハッ」


いや、俺たちが対応するのも限界があるからな。それに一つ気になることがある。クアドラプルハイランダー専用機のシュティンガー部隊……それを潰したのに敵軍の動揺が薄すぎる。普通に考えれば主力中の主力の部隊だと思うのだが、そんな要の部隊が殲滅したような動揺の広がりはなかった。


初日が、ただの小手調べだとすれば明日はキツイことになりそうだぞ……。

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