第309話 集中砲火/ジャン

今ある戦力で一番の火力は何かと考えた。魔導機では清音の菊一文字が一番強いと思うが、火力という意味では、ライドキャリアの主砲であるサラマンダー主砲が一番であろう。ムサシのサラマンダー主砲は五門、指揮下の五隻のライドキャリアにはそれぞれ三門を備え付けてある。合計二十門のサラマンダー主砲を集中的に打ち込むことができれば……そう考えたが、味方の魔導機と戦闘中の最中に艦砲射撃などできるはずもない。かと言って味方の魔導機を後退させれば、一気に敵魔導機に接近されて、それこそ砲撃など使えなくなる。


敵軍に集中砲火するから一箇所に集まって動かないでくれと、そうお願いでもしないかぎりこの作戦は実行できないと思ったが、ラフシャルの言葉を思い出してあるアイデアが頭に浮かんだ。


「ロルゴ! ちょっと危険だが、お前の力が必要だ。ちょっと無茶な頼みだが聞いてくれるか」


「お……おでか!? おで……みんなの為なんでもする……危険問題ない……」


チッ……ロルゴの性格からして断るわけないのがわかっていて、無茶をさせるのだから俺も性格が悪いな……。



ラフシャルの言葉とはガネーシャの改修中に話していた内容だった────


「成長したロルゴのルーディア値と、ガネーシャの強化されたこの装甲なら、強力な砲撃を集中的に受けても耐えれると思うよ」

「元からガネーシャは硬てえからな、それがパワーアップしてるってことだな。しかしよ、強力な砲撃って具体的にどれくらい耐えれるんだ? 例えばフガクの全砲門で集中砲火を浴びせても耐えれるものなのか?」

「シールド全開で、盾で守りを固めればそれも可能だろうね」


────ラフシャル……お前の言葉を信じるぞ……。



「全員に作戦を伝えるぞ。作戦伝達から5分後に練習生は一時後退。無双鉄騎団は敵軍を誘導して、中央に集めろ。敵が集まったら無双鉄騎団もロルゴを残して後退する」


「ちょっと待ちな、ジャン! ロルゴを囮にする気かい! いくらなんでも無茶じゃないかい!」

「ジャンのバカ! そんなのロルゴが可哀想でしょ!」


無双鉄騎団の面々が文句を言ってくるが、俺はラフシャルの言葉とロルゴを信じる。


「うるせえ! これは決定した作戦だ! ロルゴとガネーシャの硬さを信じてやれ!」


俺がそう叫ぶと、納得はしていないだろうけど、みんな押し黙った。それはすぐに当の本人であるロルゴがこう言ったからだ。


「みんな……おでの心配ありがとう……おでは大丈夫だから……硬いのだけが取り柄だから……ここはおでの見せ場だ」

「よし、よく言ったぞロルゴ! いいか、無双鉄騎団が退避したらすぐに全サラマンダー主砲の一斉射撃を開始する。そうしたら、シールドを全開にして、ムサシの方に向けて盾を構えろ。いいか、遅れるなよ! いくらガネーシャでも、盾がなければ危ねえからな!」


「おで……頑張る!」


無双鉄騎団が退避したら、ロルゴが敵から集中攻撃を受けるだろう。砲撃が遅れると、敵魔導機の攻撃で逆にロルゴが危なくなる。その為に砲撃のタイミングを遅らせるわけにはいかない。



作戦はすぐに実行に移された。練習生はゆっくりと後退を始め、無双鉄騎団は敵部隊を中央に集める為に分散して誘導を開始した。

「なるべく自然に誘導しろよ! 感づかれたら厄介だ」


こんな作戦は初めてで慣れていないはずだが、器用な連中が揃っているのか誘導は見事に達成された。敵軍は中央に密集するように集まり始めた。


密集した敵軍の中で、ロルゴは目立つように派手な動きを見せる。その間に他の連中はゆっくりと後退を始めた。


「サラマンダー主砲、全門発射用意!」


ロルゴのガネーシャが、敵機に囲まれて集中攻撃を受け始めた。早めに砲撃しないと危険だ。


「中央に向けて、砲撃開始!! ロルゴ!! 盾を構えろ!!」


俺の号令と同時に、ムサシと指揮下のライドキャリアから一斉に砲撃が始まった。二十門のサラマンダー主砲から、五秒に一発の砲撃が繰り出される。ガネーシャを中心として、辺りは爆風と炎で地獄に変わる。


流石の火力にロルゴのことが心配になるが、ここで砲撃をやめるわけにはいかない。俺は祈るように地獄絵図を見つめた。

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